第2話

文字数 861文字

 同期だった裕子(ゆうこ)からLIN☆が届いた。

『結婚三ヶ月記念日。大輔とホテルで食事してくる』

 続いてハートが飛び散り、兎が悶えているようなスタンプ。
 三十三で結婚。幸せで誰かに話したい気持ちは分かるけど、正直鬱陶しい。
 スマホを握りしめながら、痛むこめかみを押えた。

 こんなメッセージが何時まで届くのか。
 また耳障りな着信音が聞こえてきた。
 見たくない。けど既読が付かないと連投されそうなので見ておく。

『京子のところは結婚何年目だっけ?』
『十年目』
『もしかして倦怠期だったりする?』
『まぁね』

 適当に返事をしておいた。
 二十三歳で授かり婚。つまり子供ができて急いで結婚をした。
 ふっくらしたお腹を隠す、ウェディングドレスを探すのが大変だったことを思い出す。
 それでもあの頃は幸せだった。

 旦那である(あつし)は二つ上。当時はパパも二十五歳で若かったから、記念日のお祝いなどもした。
 でもそんなの二、三年もすれば、男の人は忘れちゃうのよ。
 そう裕子に何度言いたくなったことか。

 新婚気分を味わう暇なんて殆どなかった。
 妊娠、出産、子育て。

「大輔ね。うちなんてパパ呼びだけど」

 取り込んだ洗濯ものを畳みながら、名前で呼び合う裕子をどこか羨ましく感じていた。
 バスタオルが三枚。服も下着も三人分。
 息子の敦仁(あつと)も小学校中学年になって、やっと手が掛からなくなってきた。

 そう言えば敦仁が生まれてからか、お互いをパパママと呼ぶようになったのは。
 二十代を出産と育児に費やしてしまった。
 一方の裕子は恋と仕事に費やし、三十代で結婚。最初に味わった優越感が羨望へと変わっていく。

「でもそんなの今のうちよ」

 子供ができたら甘いことなんて言っていられない。
 仕事を辞めてから、生活が家を中心に回っていた。たまに世の中から隔離されているようで不安になる。
 夫と子供。狭い世界で生活している私。

「やっぱり働きに出ようかな」

 敦仁が中学になるまでは家にいようと思っていた。
 でも最近はパパの帰りも遅くてあまり話をしていない。
 誰かと、世の中と繋がっていたかった。
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