第11話

文字数 1,007文字

『叔父さんがね、け』
『こらっ。だから敦仁君のことは心配しないで。今日のために敦、残業を増やしていたみたいだから』

 ああ……お義姉さんにはそう嘘をついていわたわけね。
 それに私、パパが早く帰ってくることなんて聞いていないもの。

『それじゃ、二人で楽しんで来てね』

 プツリと切れた通話。

「楽しむじゃなくて、修羅場を頑張っての間違いでしょうが」

 お義姉さんたちはパパが不倫していること……知らないんだよね。
仕方ないか。
 敦仁は後で迎えに行くとして、とりあえず数日分の荷物をキャリーケースに詰め込んでいく。
 暫くは実家に厄介になろう。

 玄関のドアが開いた。不倫相手の元へ行く前に、言い訳でもしに帰ってきたか。
 勢いよく部屋の扉が開いた。寒いのに顔を真っ赤にしながら息を切らしている。
 どれだけ走って探してきたんだか。額から零れる汗が床へと落ちた。
 そんなに焦らなくても離婚してあげるわよ。慰謝料と養育費は貰うけどね。

「ママ……」
「何? 言い訳ならしなくていいよ」
「これ」

 手にあるのはさっき私が投げ捨てた箱。取るなって言ったくせに今度は差し出すんだ。
 払われてはいるものの、箱はかなり汚れていた。
 私に見られたから仕方なくくれるってわけ?

 そんなの……

「中身は無事だったから」

 蓋が開けられた箱には指輪が入っていた。何か想像はついていたけどね。
 ビロードのケース。大きさから指輪かピアスだろうと思ってはいた。
 指輪ということは、不倫相手にプロポーズでもする気だったのかな。

 ……悔しい。腹も立つ。
 パパにまだ未練がある自分に腹が立つ。

「私に見られ、汚れて渡せなくなったからって、こっちに寄こさないでくれる?」
「何を言っているの」

 証拠がないと思ってしらばっくれちゃって。

「これ」

 誤爆LIN☆を見せてやる。

「こ、これ……何でママのところに」

 さっきまで赤かった顔からどんどん血の気が引いていく。
 そりゃ驚くわよね。愛人へのラブラブメッセージを妻に誤爆しちゃったんだから。

「誤爆していたことに気づかなかったの?」
「あっ……続けてメッセージを送ったからか」

 何やらブツブツと言っている。

「離婚の話はまた今度にしましょう。暫く実家に帰るから」
「違う、待って」
「離して」

 まだ取り繕えるとでも思っているのだろうか。甘く見られたものだわ。
 浮気しておいて……不倫しているくせに……
 悔しいから絶対に泣かない。奥歯をギュッと噛みしめる。
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