第9話

文字数 749文字

「店を出て飲みに行きますか? 話、聞きますよ」

 パパが浮気しているのなら、私も飲みに行くくらい……
 それでも理性の方が勝った。帰りたくないけど帰らなきゃ。子供が待っている。
 家につくと敦仁が『ママお帰り』と言いながら抱きついてきた。

「お帰り。早かったね」

 仕事で忙しいはずなのに、文句も言わずに敦仁を迎えに行ってくれた。
 洒落た店での打ち合わせ。女性扱いされ喜んでいた私。
 後ろめたさを感じて問い詰められないのか、それとも今の生活を壊すのが怖いいのか。
 パパが優しくしてくれるのも、浮気をしている後ろめたいから……かもしれない。

 寝静まった頃、誤爆について検索してみた。
 あれは何かの間違いだったのかも。だって誤爆なんてするものかしら。
 藁にも縋りたい気持ちで閲覧する。

 けれど出てくる出てくる、本当か嘘なのか色々な誤爆経験が載っていた。
 電源を切りスマホを握りしめる。
 もしパパが浮気をしているのなら……修復は無理だ。
 きっと私は一生引き摺ってしまうだろう。パパに優しくすることなんて出来ない。

 離婚の二文字が浮かんだ。
 きっと私から言い出せばパパは喜んで判を押すのだろうな。
 幸い仕事は見つかった。けど敦仁と二人で暮らしていくには心許ない。
 掛け持ちで仕事をするか、別に正社員で雇ってくれるところを探すか。
 グルグルと巡る色々な思い。簡単に答えは出せそうになかった。

 日だけが過ぎて行き、心はどんどん荒んでいく。
 とぼとぼと歩く帰り道。長い坂道に差しかかる。

「ここ、嫌いなのよね」

 引っ越せばここを歩かずに済むのだろうなと思う。
 きつい上り坂が、今私が進んでいる道に思えた。
 長い。苦しい。でも立ち止まっては家に帰ることができない。

「進むしかない」

 一歩踏み出そう。頂上へと向かって走りだそう。
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