第7話

文字数 670文字

「人事部長と山田さんもね。こちらはダブル不倫」
「何で」
「知っているのかって? 人の目なんてどこにあるか分からないし、察しのいい人はすぐに視線のやり取りで気づくって」

 信じられなかった。急な寒気に襲われる。
 でもパパに限って……ない。そう信じたい。けど最近はやけに帰りが遅い。
 そのくせ外で食べてきたとか言うし。

「あとは誤爆かな」
「誤爆?」
「そう。LIN☆のね。浮気相手に送るはずのメッセージを、恋人や奥さんに誤信してしまうやつ」

 ネットニュースで見たことがあるかもしれない。
 けど自分には関係ないと思っていた。

「結婚している。なんて何の箍にもならないのよ。だから私は自分磨きを忘れないようにしているの」
「自分磨き……」

 考えてみれば妊娠して結婚、出産。慣れない育児と家庭のことに追われ、自分のことなんて後回しだった。
 結婚してもスーツ姿が様になっている裕子。控えめだけどネックレスとピアスも着けている。
 チェーン型の腕時計はブランド物だろう。

 一方の私と言えば……
 アクセサリーと言えば結婚指輪だけ。バッグも昔使っていた型の古い物。
 靴擦れを作りながら履いているパンプスだって、いつ買ったものか覚えていない。

 新しい口紅を買ってみた。美容院に行って髪を切り染めた。服も一着だけ新調してみる。
 姿見に映る自分は、少しだけキラキラしているように感じた。

 けどパパは気づいてくれない。結婚して十年も経てばそんなもの。
 もしかして他の女性に興味が移っているのだろうか。
 裕子から聞いた不倫話が胸を靄で満たしていく。

 明日もパパは、また遅いのだろう。
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