第10話

文字数 850文字

陽がすっかり落ちた頃、堀木はたかひろから引き継いだ仕事を終わらせた。

たかひろはカツ丼を半分残して静かに寝息を立てている。

やれやれ、昼間よりは顔色が良くなったようでよかった。

堀木は、もう二度と彼をこんな目に遭わせたくないし、辛い思いをさせたくないと思った。

たかひろのベッドに腰掛けて、彼の手を握った。

細くてしなやかな、少しひんやりとした手を、もっちりとした暖かい手が包み込む。

こうやって、ずっと寝顔を見ていたい。

おまえに触れていたい。

堀木はたかひろのぽってりとした厚い唇にくちづけた。

「ん……?なんなんですか、堀木さん…」

起こさないように軽く口づけたつもりだったのに、彼を起こしてしまったようだ。

「起こしてすまない。俺、考えたんだけど、また俺の部屋に来てくれないか。そばにいて欲しい、一緒に暮らそう」

たかひろの表情が一瞬パッと明るくなりかけて、すぐに色を失った。

「どうして…どうしてそんなこと言うんですか?
忘れろと言ったのはあなたの方じゃないですか。
こっちがどれだけ苦しい思いをしたか、わかった上で言ってますか?」

たかひろの瞳から一筋の涙がこぼれ、頬を伝って落ちていった。

「悪かった…。今頃になって気づいたんだ、お前を愛していることに。男同士だからって性別にとらわれすぎて、お前のことが見えていなかった」

「…俺は、一人の人間としてお前を愛している。お前の全てを受け止めたいと思う」

たかひろは頭まで布団をかぶって丸まったまま、黙っていた。

「…まあ、まずはちゃんと飯を食べて体を治すことだ。明日も様子見に来るから、晩飯ちゃんと食べろよ」

堀木が立ち上がって寝室を出ようとすると、布団の中から彼を呼び止める声がした。

「待って…堀木さん、行かないで…」

振り返ると、たかひろは瞬きを繰り返しながら大粒の涙を流していた。

堀木はたかひろを固く抱き締めた。

ーお前を、二度と離さない。

堀木の熱い鼓動が、たかひろの凍りついた心を溶かし、暖められた血液が身体の中を循環していく。

そうか、通じ合うって、こういうことだったんだ…。
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