第9話
文字数 1,277文字
日曜日の昼下がり、たかひろの部屋を訪れた堀木は玄関の呼び鈴を鳴らした。
返事がない。
3回鳴らしたところでようやく鍵を開けたたかひろは、無精ひげを生やしたまま、ひどく疲れ切った顔をしていた。
「おい、お前顔色悪いぞ。ちゃんと飯食べてんの?」
「うるさいなあ、放っておいて下さいよ。僕に説教しに来たんですか?」
そう言う彼の顔色は透き通るように青白く、そして以前よりも少し痩せたように見えた。
たかひろ、お前が心配なんだ、と言いかけたところで、彼は床に倒れ込んだ。
「たかひろ!!」
堀木は思わずチェーンのかかったドアを蹴破ると、たかひろに駆け寄った。
「おい、お前大丈夫か!俺のことがわかるか?」
たかひろはに2〜3分ほどぐったりしていたが、意識を失ったわけではないようだった。
「大げさだなあ…。ちょっと立ちくらみしただけですよ」
彼はそう言って自ら立ち上がろうとしたが、身体がぐらついて力が入らないようだった。
「もういい、貸せ」
堀木はたかひろを抱きかかえ、彼の寝室まで運んでいった。
彼の部屋は、以前訪ねた時とは見る影もなく荒れ果てていた。
枕元のローテーブルには煙草の吸殻で山盛りになった灰皿、床には使用済みのティッシュと恋人との思い出の品が散乱していた。
おまけにカーテンが閉めっぱなしで部屋全体が薄暗い。
堀木はたかひろをベッドに横たえると、カーテンを開けた。
暖かい陽が部屋の中に降り注ぎ、たかひろを包み込んでいく。
「出前とるから、飯食べたら寝てな。何が食べたい?」
「今夜締め切りの仕事があるんですよ?寝ていられる訳ないじゃないですか!食欲ないから出前もいりません」
そう言って起き上がろうとするたかひろを、堀木は強引に押さえつけた。
「あのさあ!そんな状態で仕事なんてできる訳ないだろ!もっと自分の体を大事にしろ、調子戻るまで何も考えるな」
「だって…」
「いいから、お前は少し休んでろ。そんなに気になるなら、俺が何とかしてやるから」
堀木はたかひろの書斎から彼のノートパソコンを持ってきた。
堀木自身は現場から離れて暫く経つが、自分の知識の範囲で少しでもたかひろの役に立ちたいと思ったのだ。
「分からないことあったら聞くからその時は指示してくれ。俺が引き継ぐから」
そう言うと、堀木はパソコンに向かい始めた。
幸い、たかひろは仕事を半分以上進めていたようだ。
今からやれば、夕方には片付くはずだ。
たかひろは、堀木が必死にパソコンに向かう姿を見て、学生時代のことを思い出していた。
単位を落としそうになって泣きついた時も、必死になっておいらを助けようとしてくれた。
あの頃から頼もしい人だったなあ…。
懐かしい思い出がたかひろの心を暖め、鼓動と共に全身の隅々まで広がっていくのを感じた。
あなたをずっと見ていたい…。
「ほら、出前きたから食べなさい。無理して全部食わなくていいから」
堀木は出前のカツ丼を差し出した。
「ありがとう…仕事まで変わってもらって申し訳ないです」
たかひろはうつむいたまま、割り箸を割りながら呟いた。
「気にすんなって、そんなこと」
堀木はモニター画面を凝視し、作業する手を止めなかった。
返事がない。
3回鳴らしたところでようやく鍵を開けたたかひろは、無精ひげを生やしたまま、ひどく疲れ切った顔をしていた。
「おい、お前顔色悪いぞ。ちゃんと飯食べてんの?」
「うるさいなあ、放っておいて下さいよ。僕に説教しに来たんですか?」
そう言う彼の顔色は透き通るように青白く、そして以前よりも少し痩せたように見えた。
たかひろ、お前が心配なんだ、と言いかけたところで、彼は床に倒れ込んだ。
「たかひろ!!」
堀木は思わずチェーンのかかったドアを蹴破ると、たかひろに駆け寄った。
「おい、お前大丈夫か!俺のことがわかるか?」
たかひろはに2〜3分ほどぐったりしていたが、意識を失ったわけではないようだった。
「大げさだなあ…。ちょっと立ちくらみしただけですよ」
彼はそう言って自ら立ち上がろうとしたが、身体がぐらついて力が入らないようだった。
「もういい、貸せ」
堀木はたかひろを抱きかかえ、彼の寝室まで運んでいった。
彼の部屋は、以前訪ねた時とは見る影もなく荒れ果てていた。
枕元のローテーブルには煙草の吸殻で山盛りになった灰皿、床には使用済みのティッシュと恋人との思い出の品が散乱していた。
おまけにカーテンが閉めっぱなしで部屋全体が薄暗い。
堀木はたかひろをベッドに横たえると、カーテンを開けた。
暖かい陽が部屋の中に降り注ぎ、たかひろを包み込んでいく。
「出前とるから、飯食べたら寝てな。何が食べたい?」
「今夜締め切りの仕事があるんですよ?寝ていられる訳ないじゃないですか!食欲ないから出前もいりません」
そう言って起き上がろうとするたかひろを、堀木は強引に押さえつけた。
「あのさあ!そんな状態で仕事なんてできる訳ないだろ!もっと自分の体を大事にしろ、調子戻るまで何も考えるな」
「だって…」
「いいから、お前は少し休んでろ。そんなに気になるなら、俺が何とかしてやるから」
堀木はたかひろの書斎から彼のノートパソコンを持ってきた。
堀木自身は現場から離れて暫く経つが、自分の知識の範囲で少しでもたかひろの役に立ちたいと思ったのだ。
「分からないことあったら聞くからその時は指示してくれ。俺が引き継ぐから」
そう言うと、堀木はパソコンに向かい始めた。
幸い、たかひろは仕事を半分以上進めていたようだ。
今からやれば、夕方には片付くはずだ。
たかひろは、堀木が必死にパソコンに向かう姿を見て、学生時代のことを思い出していた。
単位を落としそうになって泣きついた時も、必死になっておいらを助けようとしてくれた。
あの頃から頼もしい人だったなあ…。
懐かしい思い出がたかひろの心を暖め、鼓動と共に全身の隅々まで広がっていくのを感じた。
あなたをずっと見ていたい…。
「ほら、出前きたから食べなさい。無理して全部食わなくていいから」
堀木は出前のカツ丼を差し出した。
「ありがとう…仕事まで変わってもらって申し訳ないです」
たかひろはうつむいたまま、割り箸を割りながら呟いた。
「気にすんなって、そんなこと」
堀木はモニター画面を凝視し、作業する手を止めなかった。