第7話
文字数 1,653文字
午前7時、堀木が目を覚ますと、たかひろはまだ眠っていた。
堀木は彼を起こさぬよう、そっとベッドから抜け出し、身支度を整えて仕事へ出かけていった。
駅に向かうタクシーの中でも、昨晩のたかひろの裸が頭の中でチラついて離れない。
『堀木さん…おいらを抱いてくれませんか…?
あなたともっと、通じ合っていたいんです。
彼はそう言って堀木の胸に顔を埋めた。
堀木は戸惑いを感じながらも、恐る恐るたかひろを抱き寄せ、全身を愛撫した。
少し痩せ気味の、骨ばった体を、堀木の大柄な肉体が包み込んでいく。
たかひろの肛門に触れると、彼はぴくん、と身体をのけぞらせた。』
堀木はこの光景を思い出して、可愛らしいと思いかけたのを必死に打ち消した。
―いや、でも、あいつは男だぞ?
男が男にときめくなんて、どうかしてる。
最近ずっと忙しかったし、疲れているに違いない。
堀木は一日中たかひろのことが気がかりで、仕事にもあまり身が入らなかった。
夕方、堀木が帰宅すると、たかひろは台所に立って夕食の支度をしていた。
「あら、もう帰って来たんですか。いつもはこんなに早くないですよね?」
たかひろは手を止めて微笑んだ。
彼の笑顔がまぶしすぎて、直視できなかった。
「まあな、今日は久しぶりに定時で退社したよ」
堀木はスーツのジャケットとネクタイを脱ぎ捨てると、台所のチェアにどっかりと腰を下ろした。
「 へえ、お前って、家事できたんだな。部屋の片付けまでさせて悪いな」
「いいえ、おいらは一日中部屋にいてヒマですから」
ソファに脱ぎ捨てたまま忘れていた T シャツ、部屋の片隅に溜め込んだ洗濯物、先日、ゴミの日に出しそびれたコーヒーとエナジードリンクの空き缶がすっかりきれいに片付けられていた。
「お前も在宅で仕事してるんだからヒマってことはないだろ」
堀木は笑って言った。
彼は内心、自分に尽くしてくれるたかひろを拒絶するのを心苦しく感じていた。
でも、このまま誤魔化し続けるわけにもいかない。
「あのさ、たかひろ、昨日の夜のことなんだけど、お前が俺のことを想ってくれているのは嬉しいよ。でも、お前の気持ちに応えることはできない」
堀木がこう言った瞬間、たかひろの顔からサッと笑みが消えた。
「…どうして?嘘つくの、辞めて下さいよ。昨日、最後までしてくれたのは一体何だったの」
「本当に申し訳ないと思っている。でも、ハッキリ言って、お前は性欲と愛情を履き違えている。女にちょっと拒絶されたくらいで男に走るのは違うんじゃないのか?」
「堀木さんの言うとおり、初めはそうでした。彼女とうまくいかなくなって、淋しさをあなたで埋めようとしていた。でも今は違います。あなたと通じ合えたと思っていたのに…」
「正直言わせてもらうと、こっちは迷惑だ。毎週毎週、夜中に押しかけてきて性欲処理の相手させられて。お前の欲を愛情にすり替えて押し付けるのはやめてくれ」
たかひろの表情がみるみる凍りついていくのを感じる。
たかひろはもう、何も言わなかった。
目に涙を浮かべながらチャーハンを炒めている。
本当はここまで言うつもりはなかった。
でも、彼の一時的な気の迷いなら、早く新しい恋人を見つけて幸せになってほしい。
「風俗とか、そういうところ行くの嫌なら、サッサと新しい彼女作りな。
あの娘のことも、俺のことも全部忘れろ。
今週いっぱいまでは泊めてやるけど、それが済んだらもうここにも来ない方がいい」
二人は無言で食卓を囲んだ。
堀木はたかひろを傷つけたことに胸を痛めたが、中途半端な慰めはかえって彼の傷口を広げるだけだと思い、黙っていた。
本当は、彼の事を迷惑だなんて思っていない。
ただ、男同士でどう愛し合えばいいのか分からないし、今まで性欲だけの男と決めつけて彼を理解しようとしなかった自分が許せなかった。
やはり、彼には新しい恋人を見つけてもらった方がいい。
どんよりとした重苦しい空気の中、二人は食事を済ませた。
「後片付けは俺がやるから、お前はもう休んでな。俺、今晩からソファーで寝るから寝室使っていいぞ」
たかひろは黙って頷いた。
堀木は彼を起こさぬよう、そっとベッドから抜け出し、身支度を整えて仕事へ出かけていった。
駅に向かうタクシーの中でも、昨晩のたかひろの裸が頭の中でチラついて離れない。
『堀木さん…おいらを抱いてくれませんか…?
あなたともっと、通じ合っていたいんです。
彼はそう言って堀木の胸に顔を埋めた。
堀木は戸惑いを感じながらも、恐る恐るたかひろを抱き寄せ、全身を愛撫した。
少し痩せ気味の、骨ばった体を、堀木の大柄な肉体が包み込んでいく。
たかひろの肛門に触れると、彼はぴくん、と身体をのけぞらせた。』
堀木はこの光景を思い出して、可愛らしいと思いかけたのを必死に打ち消した。
―いや、でも、あいつは男だぞ?
男が男にときめくなんて、どうかしてる。
最近ずっと忙しかったし、疲れているに違いない。
堀木は一日中たかひろのことが気がかりで、仕事にもあまり身が入らなかった。
夕方、堀木が帰宅すると、たかひろは台所に立って夕食の支度をしていた。
「あら、もう帰って来たんですか。いつもはこんなに早くないですよね?」
たかひろは手を止めて微笑んだ。
彼の笑顔がまぶしすぎて、直視できなかった。
「まあな、今日は久しぶりに定時で退社したよ」
堀木はスーツのジャケットとネクタイを脱ぎ捨てると、台所のチェアにどっかりと腰を下ろした。
「 へえ、お前って、家事できたんだな。部屋の片付けまでさせて悪いな」
「いいえ、おいらは一日中部屋にいてヒマですから」
ソファに脱ぎ捨てたまま忘れていた T シャツ、部屋の片隅に溜め込んだ洗濯物、先日、ゴミの日に出しそびれたコーヒーとエナジードリンクの空き缶がすっかりきれいに片付けられていた。
「お前も在宅で仕事してるんだからヒマってことはないだろ」
堀木は笑って言った。
彼は内心、自分に尽くしてくれるたかひろを拒絶するのを心苦しく感じていた。
でも、このまま誤魔化し続けるわけにもいかない。
「あのさ、たかひろ、昨日の夜のことなんだけど、お前が俺のことを想ってくれているのは嬉しいよ。でも、お前の気持ちに応えることはできない」
堀木がこう言った瞬間、たかひろの顔からサッと笑みが消えた。
「…どうして?嘘つくの、辞めて下さいよ。昨日、最後までしてくれたのは一体何だったの」
「本当に申し訳ないと思っている。でも、ハッキリ言って、お前は性欲と愛情を履き違えている。女にちょっと拒絶されたくらいで男に走るのは違うんじゃないのか?」
「堀木さんの言うとおり、初めはそうでした。彼女とうまくいかなくなって、淋しさをあなたで埋めようとしていた。でも今は違います。あなたと通じ合えたと思っていたのに…」
「正直言わせてもらうと、こっちは迷惑だ。毎週毎週、夜中に押しかけてきて性欲処理の相手させられて。お前の欲を愛情にすり替えて押し付けるのはやめてくれ」
たかひろの表情がみるみる凍りついていくのを感じる。
たかひろはもう、何も言わなかった。
目に涙を浮かべながらチャーハンを炒めている。
本当はここまで言うつもりはなかった。
でも、彼の一時的な気の迷いなら、早く新しい恋人を見つけて幸せになってほしい。
「風俗とか、そういうところ行くの嫌なら、サッサと新しい彼女作りな。
あの娘のことも、俺のことも全部忘れろ。
今週いっぱいまでは泊めてやるけど、それが済んだらもうここにも来ない方がいい」
二人は無言で食卓を囲んだ。
堀木はたかひろを傷つけたことに胸を痛めたが、中途半端な慰めはかえって彼の傷口を広げるだけだと思い、黙っていた。
本当は、彼の事を迷惑だなんて思っていない。
ただ、男同士でどう愛し合えばいいのか分からないし、今まで性欲だけの男と決めつけて彼を理解しようとしなかった自分が許せなかった。
やはり、彼には新しい恋人を見つけてもらった方がいい。
どんよりとした重苦しい空気の中、二人は食事を済ませた。
「後片付けは俺がやるから、お前はもう休んでな。俺、今晩からソファーで寝るから寝室使っていいぞ」
たかひろは黙って頷いた。