第4話

文字数 654文字

その出来事があってからも、たかひろは何食わぬ顔で彼女と共に過ごし、夜は同じベッドで眠った。


彼は彼女のことを愛していないわけではなかったが、拒否されるようになってからというもの、彼女との間に隔たりを感じるようになっていた。


身体の関係がなくても、心で通じ合っている、というのは彼にとってはおとぎ話の出来事でしかなく、身体が一つになってこそ、そのお互いが通じ合えるのだと信じていた。


相手を性欲処理の道具にしているつもりなどさらさらなく、ただ、いつでも彼女の綺麗な肌を見ていたい、いろんな姿を見ていたい、という気持ちだけだった。


けれど、全て自分の独り善がりだったんだろうか。


この感情は、彼女をいつでも自分のものにしたいという気持ちは、一体なんなのか。


彼は夜な夜な、隣で静かに寝息を立てて眠る彼女の寝顔を見ながら自問自答を繰り返す日々を送っていた。


この身体の奥から湧いてくる、抑えられない衝動は、性欲か、愛情か。


そばにいるのに、触れられないのが、苦しい。


彼は徐々に、仕事を口実に書斎にこもりがちになっていった。


彼女の顔を見ていると、苦しさで頭がどうにかなってしまいそうだからだ。


フリーランスプログラマーである彼は、昼も夜も書斎にこもって常に仕事と向き合うことで、自分の迷いを打ち消そうとしたのだ。


すべて、自分が悪いのだ。


自分さえ我慢すれば、彼女のそばにずっといられるのに…。


彼女と、一つになりたい。


仕事中も脳内で彼女のことがチラつき、悶々として落ち着かなくなったたかひろは、ある晩、堀木に相談しようと彼の部屋を訪れた。

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