第10話 回復

文字数 728文字

 手術をした日から三日目の朝、やはり眠かった。予定では、まだ経口(けいこう)で水分を摂取出来ないことになっているが、経過がいいため担当医から水を飲んでもいいという許可がおりた。

 看護師が、紙コップに冷水を入れて持って来てくれた。一口目に飲んだ冷水はまるで、汲んだばかりの湧水(ゆうすい)を飲んだような清涼を味わった。看護師が、「おいちい?」とからかうように新田に尋ねた。新田が頷くと、看護師はあどけない笑いを浮かべていた。いいおやじが、病院のなかではまるで幼い子供のようである。

 看護師は手術後、おならがでたかどうか卒中新田に聞いてきた。これは、腸閉塞(ちょうへいそく)が解除されたかどうかを確認するための重要な作業であるらしい。腸閉塞が長く続くと、再手術をしなければならなくなるほど深刻なことなのである。

 その日の正午、新田はおならを確認した。おならを確認してから便意をもよおすまでそれほど時間はかからなかった。何も食べていないのにどうして便意をもよおすのか、新田は不思議でならない。新田がそのことについて看護師に質問すると、腸の表面がはがれてそれが便として排出するのだと説明していた。

 今日から本格的にリハビリを開始することになっている。離床の妨げになるため、尿道カテーテルの抜去(ばっきょ)が行われた。これまでは、尿道カテーテルによって排尿をしていたのである。

 女性の看護師に局部をもろに見られたので羞恥(しゅうち)を覚えたが、看護師は淡々とカテーテルを外していた。

 病棟の建物はなかが吹き抜けになっているため、廊下を歩いていると一周回ってもとの場所にもどって来る。その病棟の廊下を繰り返し歩き回るのである。新田が受けた手術は、大腸がんの手術のなかでも手間がかからない手術であったようで、その分回復するのも早かった。
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