4.川遊びの写真

文字数 1,547文字

夏休みも中盤に差し掛かり、お盆休みの時期が来た。ひとみは一週間、母と茨城の実家に、富井は二週間、家族と車で北海道に出かけた。その後、二人共帰ってきて、さっそく富井がひとみの家を訪れた。
「きみ、北海道楽しかった?」
「うん。すごくいいところだった。広々として、日本じゃないみたいだったよ。でも〜、ひとみさんがいたらもっとよかったんだけど」
「わたしもね、いつも、いつも、きみのことを考えてたんだから。一緒に来れたらな〜って。それから、ここに、いなかの写真があるから、見る?」

ひとみは、何枚か写真を見せた。富井は何気なく見ていたが、最後の写真に目が釘付けになった。
「どうしたの?」
「これ、どこ? この男の子達、だれ?」
「あ〜、それは、実家の近くの那珂川で泳いだとき。その男の子達は、わたしの従兄弟達。やっぱり、お盆休みで来てたから」
「へー。いいな、ひとみさんの従兄弟達。ひとみさんの水着姿が見れて......」
富井は真剣に羨ましがっている。

それを聞いて、ひとみは思わず口に出した。
「きみにも、見せてあげるよ」
「えっ?!」
富井は目を白黒させて動揺している。
「ちょっと外に出てて。今着替えるから」

しばらくして、ひとみが声を出した。
「もーいーよ」
ひとみはドアを開けて、富井をまた部屋に入れた。
「どう? 満足した? これ、あの写真のと違うでしょ? 実は、つい最近、お母さんが季節の終わりの安売りで買ってきてくれたの。ビキニは初めてなんだ。それに......、これ、中学生には、ちょっと露出度が〜。この辺ちょっとずれたら......」
ひとみは、水着の端をつまんで見せた。富井は、目を見張った。
「あれっ? どうしたの? もしかして、見えちゃったの? きみ、見たんでしょ!」
富井はひとみの方を凝視したまま、棒立ちになっていた。
「ところで、きみ、どうして、そんなに、かしこまってるの?」
ひとみは、じっくりと富井のことを観察してから、おもむろに言った。
「ははぁ! きみ、ズボンがきつそうじゃない。ちょっと、ここに座って」
ひとみは、富井を無理やりベッドに座らせてから、いたずらをするような口調で言った。
「えへ、わたしがゆるめてあげるから。そして、わたしも......」
好奇心のかたまりとなったひとみは、勝手に手を伸ばして、言った通りの事をした。無防備な富井はと言えば、もう現実か夢か、分からないような状態だった。

________Θ Θ________Θ Θ________

ひとみの母親が帰ってくる時間が近づいてくると、富井は、やっとの思いで、帰る支度を始めた。
「ひとみさん......」
「何?」
「ぼく達、まだ友達だよね?」
「当たり前じゃない。どうしたの? 急に」
「だって、友達同士って、見たりしないよね?」
「あ〜、そういうこと? で、見ちゃいけないの?」
「あっ、その〜。そういう訳じゃないんだけど。それは、したいんだけど、なんか、今までと変わっちゃうんじゃないかと......」
「ふ〜ん。変わっちゃうねぇ〜。え〜と、確かにそうかもね!」
「えっ?!」
「わたし達、お互いに、もう隠すもの、ないんだから。もしかして......、恋人?」

富井は、夢うつつだった。
「恋人......」
それは、その時まで、富井には思いもつかない言葉だった。
「うん。恋人! 文句ある?」
富井は、恥ずかしそうな顔をして、それから、満面の笑顔を浮かべた。
「ひとみさん、大好きだよ!」
そう言うと、富井は思い切って、ひとみの家を出ていった。足取りは軽く、思わずスキップになっていた。富井が出ていった後、ひとみは一人でボーッとしていた。それで、なかなか夕食の準備にかかれなかった。母親は、帰ってきた時、口を開けてぼんやりしているひとみを見て、怪訝そうな顔をした。
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