聖樹☆転生 私は非リアのクリスマスツリー
文字数 1,166文字
私はいわゆるクリスマスツリーである。
寒空の下、流行りのLEDの電飾を巻き、てっぺんには星を飾っている。
元はしがない男子大学生であったが、非業の死を遂げ、モミの木に転生した身だ。以来ずっと枝葉に雪を積もらせるだけの暮らしをしてきた。それが今ではこうして電飾を巻かれ、立派に聖夜を彩っている。
ちなみに私はこの長身と持ち前の明るさからカップルの待ち合わせ場所として重宝されているそうだ。
けっ、反吐が出る。
噂をすれば何とやら。サクサクと雪を踏む音に若い声が重なる。
「ごめーん、ゆっくん待ったー?」
「いや全然。おれも今来たところ」
嘘つけ。一時間も前から私の根元に来て暇そうに煙草を吹かせていただろうが。ここは禁煙だ。
「ねぇ、ゆっくん」
「あん?」
「呼んだだけ」
「なんだよ、もう」
「えへへ」
きぃぃぃぃいいいいいい!!
全身の維管束がはちきれそうだ! 見せつけやがって、このバカップルめ!
なぜ真面目で勉強もでき月曜一限も遅刻せず参加してきた私には誰も振り向かず、こんな金髪ピアスのちゃらちゃらチャラ男が相思相愛の相手を得ているのだ!
けしからん、けしからんぞ! 神は何をされている、天界で昼寝でもなさっているか!
「なあ、千春」
「ん?」
「夕食のあと……ホテル、行かないか」
……は?
ホテル。今、ホテルと言ったか。宿でもモーテルでもなく、意味ありげにホテルと。
まさか貴様、ラブを略してホテルと言ったのではあるまいな。
「えー、どーしよっかなー。あ、じゃあさ、じゃんけんして勝った方が決めようよ」
やはりそうか。ラブの付くホテル。簡易愛の巣。夢の国の城みたいな外観をして独り身男子には本当に夢でしかない、あのホテルか。
聖夜の起源も意義も知らず知ろうともしない破廉恥若人 どもに私は憤慨 した。斯様 な現状は看過できぬ。誰かが不純異性交遊 にうつつを抜かすこの不埒な輩に天誅 を下さねばならぬ。
「それじゃ、いっくよー」
この身はあと数日すれば廃棄処分される運命。ならば恐れるものはない。全国の独り身男子諸君、我に力を!
「「最初はグー、じゃーんけーん……」」
ポォォォオオオオン!!
私は己の巨体をへし折り、今そこでイチャついているカップルめがけて倒木する。
引きちぎった電気ケーブルから火花を散らし、四方八方へ飛び出た枝を中指のごとく突き立て黄色い悲鳴の渦中へ。
「きゃああああ!」
「うわっ、あっあっあぁぁぁああ!」
死に晒せ、リア充ども!
ドスン、と鈍い音がコンクリートの大地を揺らす。
雪の舞い散る中、白い生クリームのうえに潰れたイチゴが二つと汚いクリスマスツリー。
二度目の最期は一度目と比べて色鮮やかで、満ち足りていた。消えゆく意識の中、私は微かに笑う。
……あのカップルの表情、忘れられねぇぜ!
三題噺「クリスマス」「じゃんけん」「表情」
寒空の下、流行りのLEDの電飾を巻き、てっぺんには星を飾っている。
元はしがない男子大学生であったが、非業の死を遂げ、モミの木に転生した身だ。以来ずっと枝葉に雪を積もらせるだけの暮らしをしてきた。それが今ではこうして電飾を巻かれ、立派に聖夜を彩っている。
ちなみに私はこの長身と持ち前の明るさからカップルの待ち合わせ場所として重宝されているそうだ。
けっ、反吐が出る。
噂をすれば何とやら。サクサクと雪を踏む音に若い声が重なる。
「ごめーん、ゆっくん待ったー?」
「いや全然。おれも今来たところ」
嘘つけ。一時間も前から私の根元に来て暇そうに煙草を吹かせていただろうが。ここは禁煙だ。
「ねぇ、ゆっくん」
「あん?」
「呼んだだけ」
「なんだよ、もう」
「えへへ」
きぃぃぃぃいいいいいい!!
全身の維管束がはちきれそうだ! 見せつけやがって、このバカップルめ!
なぜ真面目で勉強もでき月曜一限も遅刻せず参加してきた私には誰も振り向かず、こんな金髪ピアスのちゃらちゃらチャラ男が相思相愛の相手を得ているのだ!
けしからん、けしからんぞ! 神は何をされている、天界で昼寝でもなさっているか!
「なあ、千春」
「ん?」
「夕食のあと……ホテル、行かないか」
……は?
ホテル。今、ホテルと言ったか。宿でもモーテルでもなく、意味ありげにホテルと。
まさか貴様、ラブを略してホテルと言ったのではあるまいな。
「えー、どーしよっかなー。あ、じゃあさ、じゃんけんして勝った方が決めようよ」
やはりそうか。ラブの付くホテル。簡易愛の巣。夢の国の城みたいな外観をして独り身男子には本当に夢でしかない、あのホテルか。
聖夜の起源も意義も知らず知ろうともしない
「それじゃ、いっくよー」
この身はあと数日すれば廃棄処分される運命。ならば恐れるものはない。全国の独り身男子諸君、我に力を!
「「最初はグー、じゃーんけーん……」」
ポォォォオオオオン!!
私は己の巨体をへし折り、今そこでイチャついているカップルめがけて倒木する。
引きちぎった電気ケーブルから火花を散らし、四方八方へ飛び出た枝を中指のごとく突き立て黄色い悲鳴の渦中へ。
「きゃああああ!」
「うわっ、あっあっあぁぁぁああ!」
死に晒せ、リア充ども!
ドスン、と鈍い音がコンクリートの大地を揺らす。
雪の舞い散る中、白い生クリームのうえに潰れたイチゴが二つと汚いクリスマスツリー。
二度目の最期は一度目と比べて色鮮やかで、満ち足りていた。消えゆく意識の中、私は微かに笑う。
……あのカップルの表情、忘れられねぇぜ!
三題噺「クリスマス」「じゃんけん」「表情」