第二章 妥協が嫌ながら限界突破!?

文字数 2,328文字

コンビニ袋をぶら下げたナナミは、たまたま帰り道、公園のブランコに、うなだれて腰掛ける小太郎の姿を見つけた。
何しとんねんワレ。いつまでもいじけとっちゃ、結婚なんざ永遠に不可能やで。呼び出されたこっちの身にもなれや。
ナナミ!? なんだその格好!?
なんだって、なんや? さっきのままの格好やけど。着替えもないしな。
変な水着みたいな恰好で外を出歩くなんてどういうことなんだよ! ほら、服は買って来てやるから、いったんうちに帰るぞ、早く!
小太郎はナナミの手を引き、あわてて自宅アパートへと引き上げた。
アパートの自室にて…………。
………………ったく、そんなロリコンほいほいの格好で外出するなっての……。その尻尾とか、背中の小さな羽とか、コンビニで何も指摘されなかったのか。
プリン美味っ。ジロジロ見られたけど、別になんも言われへんかったで。
プリン10個も食うのかよ……。まぁそういうコスプレしてる子もいるしな。だけど水着っぽいのだけはアウトだ。あとで服は買ってきてやるから、それまで出歩かないでくれ、頼む。
そもそも小太郎が勝手に家から飛び出したのが悪いんや。ほんのちょっと現実に触れたくらいで涙目で逃げ出すなんてガキなんか? 年収350万なんやから仕方ないやろう。
イマドキ年収350万円なんて極々普通だぞ。納得いかない。
だったら、イマドキ30歳越えて婚活する女やって極々普通やで。納得しろやボケ。
どうしてだ…………。どうしてそうなる………………
せやから男女ともに、さまざまな条件が複雑に絡み合う言うたろう。だがな、すべてを満たせる相手なんざ端っからいない。まずは選定の基準を定めるために、最重要条件を用いて公式化するのが手っ取り早いし、勘違いから起こるミスも解消できる。これは婚活という航海に乗り出すための海図の第一枚目や。コンパスみたいなものなんや。ここがスタートラインなんやっつうの。
小太郎みたいな阿呆は何度でもこの公式を確認しとけ。トイレの壁にでも貼り付けておけや。
俺にはもう、逆転の目がないっていうのか……?
たとえこの公式上は厳しくとも、他の部分で突出したメリットがあれば十分に逆転は可能やで。敵を知り己を知ればって言うやろう。逆転の方策を練るためにも、やっぱりこの公式が必要ってわけやな。
突出したメリットってなんだよ。
たとえば男の場合もし年収が低くても、社会的ステータスがあるとか評価されるべき点があるやろう。仮に年収100万円しかない冒険家やったとしても、冒険の様子をテレビや雑誌で取り上げられて日本中で有名になれば、添い遂げてもいいっていう女の一人や二人見つかるはずや。
ハードル高すぎるだろ……………………
そうやな、残酷なようやが難しい。選べる道は二つに一つや。自身の現状を理解して思い切り妥協するか、それとも自身を向上させて限界に挑戦するか…………
限界突破だ。この蒼の十字団総統ともあろう速水小太郎が、妥協なんて恥ずかしい道を歩めるわけもない。18歳の超可愛い女の子に俺は出会うべきなんだ。でなければ、俺の物語は始まらない。
彼女いない歴と年齢が一緒の童貞野郎が何ほざいてんねん。求める条件が高すぎて永遠に始まりそうもないわな。まずは蒼の十字団なる怪しげな組織を脳内から追い出せや。
ナナミ、俺を結婚させる約束だろ。俺が出来ることなら何でもやる。だから俺を、妥協させずに結婚させてくれ。
妥協がない結婚なんか奇跡やで。そんな奇跡がほしければ、文字通り命懸けで努力することやな。
なんかスポ根漫画みたいになってきたな…………。悪魔なんだから、何かすごい能力とかあるはずだろ? 努力なんかしないで、ドラ○もんみたいに、俺のことを好きで好きで溜まらない美少女を呼び出してくれるとか出来ないのかよ?
うちは何もかもがすごい。神として崇め奉られていた時代もあったんやから当然やで。せやけど、この世界構造をねじ曲げるようなことはできへんな。
魔法くらいは余裕で使えるんだろ?
なんやそら。アニメでも見とけやカス
その背中の羽で空だって飛べるはずだ。
はあ? 羽が飛ぶためのものだって誰が決めた? 空飛ぶニワトリがいたら引っ張ってこいやボケ。
テレビに出てるアイドルの子に幻術でもかけて、俺のことを愛するようにさせたりできるんじゃないか?
うざっ………………。どこまで夢見てんねん。ワレは首釣ってくれたほうがええかもしれんな雑魚が。
だったらナナミの何がすごいんだよ。
存在がすごい。せやろ?
言い訳ばかりしてるようだけど、結局、何もできないんじゃねーか!
せやから、小太郎みたいな最悪無能な人間やて、ちゃんと結婚させたるっちゅーの。その代わり、うちがこれから次々に提示していく公式を基に現実と向き合い、きっちり切磋琢磨せえや。婚活は修行、婚活は自分磨きやでぇ。
こんなんで俺は毎月15万も生活費をむしられるのか? 俺の手取りの大半を持っていくつもりかよぉ! 胡散臭い結婚情報サービスより遥かに悪辣だ!
アホ抜かせ。どうせ結婚したかてなぁ、現実の嫁なんかもっと悪辣なもんやわ。ホンマや。うちなんて天使みたいなもんやで。悪魔やけど。
俺の寿命の10年を返せ! 消費者センターに抗議してやるぅ!
ボケが。もう契約は成立してて、撤回不可能なんやって。せいぜい足掻いて努力することやな。
畜生! もうどうにでもなれだ! やってやる、やってやるぞ! 18歳のスーパー美少女と結婚してやるこの野郎!
おう、その調子やで。小太郎が結婚できるようどんどん行くから、気合い入れて構えとけや!
次回、悪魔ナナミの本音丸出し婚活講座がさらにヒートアップ!?
人間不信に陥る小太郎に、さらに過酷な指導が展開されて……!?

第三章へ続く――!
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登場人物紹介

【大悪魔ナナミ】

ひょんなことから小太郎が呼び出してしまった大悪魔。
マスター小太郎の寿命10年と引き替えに、婚活の成功を引き受けた。
自称、8歳。
自称、豊穣の神として長らく信仰の対象だったことがある。
自称、地球の過去や未来を知り尽くす、人智を越えた鬼神。
自称、森羅万象に精通した宇宙史上最も尊い存在である。

【速水小太郎】

33歳、年収350万、171センチ、体重62キロの婚活難民。
中堅企業に勤める普通のサラリーマンだが、優れた技能を持つわけでもなく将来は危うい。
結婚相手となるべき18歳の美少女(処女)を追い求め、婚活戦場を駆け巡る。
自称、いにしえの歴史を持つ秘密結社『蒼の十字団』総統で、重度の中二病でもある。

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