円卓会議02
文字数 3,628文字
それから、俺は大まかな事をマーリンの口から聞いた。攻防の中、徐々に押されている状況。しかし、それでも押し返すアーサー王が率いるブリテンの騎士達。
「んじゃあ、改めて聞こう。この窮地を信長はどう見る?」
窮地をどうみる……か。アーサーが言いたいのは“救えるか”とかそんな単純では無い事をさっきの会話で俺は分かった。分かったからこそ、もっと考えるんだ。足りないものを探せ……。
アイツらは何故すぐにでも攻めてこない? 大衆を募らせれば大打撃を喰らいながらも間違いなく進行は出来る。それなのに攻めてこないのは何故……か。
思い出せ、歴史の映画やゲームでの場面を。まるで、状況を確認しながらのような進行する様は何故か。
「アーサー王は」
「アーサーでいいぞ。信長」
「そ、そうか? ん、んじゃあ改めて。逆に、この窮地で、アーサーはどうしたいんだ??」
アーサーは、傍から見ても力強く握っていると分かる程、編んだ指を赤く滲ませ。強い視線で俺を穿つ。その眼力に慄きながらも、その瞳を見つめた。
「勝ちたい以前に被害を最小限に。死人をなるべく出したくねぇ」
「だよな……」
それは本心だろう。そして、それが皆を率いるに足る器あってこそなんだと俺は思った。
ケルト民族は本来、死んでも次がある。と言う考えだったらしい。要するに、死は終わりじゃなく始まり。故に、死を恐れる事がまず少なかった。だが、今アーサーが発言したそれは死を重んじ敬う心だ。本心で、強がらずに口にしたソレに答えなければならないな。
「とりあえず、戦いを長引かせよう」
「やれやれ、君はおバカか?? アーサーも言っていたじゃないか。『被害を最小限に』って。長引かせたら、その分被害を被る。やはり、君は」
コイツは本当に俺が気に食わないんだな。すげぇ嫌味ったらしい言い方をチョイスしやがって。流石にそんな言い方されんのはイライラする。だから若干威嚇混じりに、
「いやいや。何を言ってる? と言うか何を想像してる? グィネヴィア。誰も戦いを始めたあとの話をしてるんじゃない」
「ハハハッ! だそーだぞ? グィネヴィア」
「──チッ」
いや、舌打ちしたいのはコッチだから。イケメンだしハンサムだしズルイから!! 俺なんか
しがない高校生だから!! 黒髪だし、目も一重だし、身長も体重も平均だし! イケメンなんて爆破してしまえ!! ね? ガヴェインさん!? と、取り乱してしまった。ごめんなさい、ガヴェインさん。
「まず、俺が思うに此処にすぐ攻めてこないのは“恐れ”があるからなんだ。どんな強い猛獣も初めは警戒から入る。そして、隙を見計らい襲いかかる。ならば、警戒モードを上げさせればいい」
「と言うと?? 私には中々、想像つかないんだが?」
ランスロットは、眉を顰め必死に想像してる様子を見せる。どうやら、皆ちゃんと耳を傾けてくれているらしい。そう一番感じるのは、目を閉じ俺の話を静かに聞いてくれてるアーサーだ。あんな、ワチャワチャな人が……だ。
「アーサー王。寝ては駄目ですよ……」
「──うにゃ? べ、別に寝てねーし!! 目を閉じて聞いてただけだし!!」
「アーサー王、コレで涎をお拭き下さい」
「──あ、ありがとう。マーリンッ」
──こいっつら!! 必死に考えたのに!!
「で?? トイレが何処かって?」
「それは、アンタの夢の中の話だろ!!」
「ハハハッ。ちげーねぇ。どーも、説明は苦手でな」
頭を掻き、椅子の横に立てかかった剣を握り空で振るいながら『俺は体を動かすのが基本』とでも訴えるかのようにアピールする。だが、その鞘に入った剣については俺も気にならずには居られなかった。少し話は脱線するが、
「その剣が、妖精の加護を受けし剣“エクスカリバー”なのか??」
「騎士様、なぜそ」
「エクスカリバー? なんだそりゃ。これは“エクスカリボー”俺が引き抜いた剣だが?」
まだ手にしていない? となると、やはりこの戦いはアーサー王伝説の石垣になる場面と言う事か。
「言い間違えた。すまんすまん! でだ、話を戻そう。あの壁は遮る為に有るんだよな??」
それは、マーリンの魔術によって見た光景に入り込んだ長い壁。高いかどうかは、分からないが乗り越えて来ないことから高いのだろう。
「はい、そう伝えられております」
マーリンは、何かを考えているのか、さっきよりも元気がないようにも見える。
だが、聡いマーリンの事だ。すぐに答えに行き着くだろう。
「あそこに半分の兵士を集ませる事は出来るか??」
「ん? さっき戦いはしないと言わなかったか??」
「戦いはしない。が、威嚇をする。士気を下げる事に徹するんだ」
腕を組み、沈黙する者。天井を見ながら、イメージをしているのか口をパクパクさせてる者。三者三葉すぎる反応だが、きっと思考を凝らしているに違いない。
あの文句を垂らしていたグィネヴィアですら黙っている。
よしゃ勝った!
「だぁぁっあ!! わっかんねぇえ! どう言う事だよ??」
一番初めに痺れを切らしたのは当たり前のようにアーサー。つか、考えていたのかすら怪しいけどな。
「この時代にも鉄がある。こっちが臨戦態勢だと言うのを知らしめるんだ。昼夜問わずに鉄を叩け、昼夜問わず火を炊け、昼夜問わず鬨の声をあげよ、会話は成る可く大きい声で。その中には時々、嘘の情報を織り交ぜるんだ。一日も欠かさずに毎日」
「そんなんに、意味があるのか??」
意味があるのか? と聞かれたら、あるとは言えない。何故なら試した事なんか一度も無い。見た事があるだけの事。だが、俺にはそんな当てにならない知恵しかない。当然実力がある訳でもないんだ。
「なるほど……」
顎に手を付き、腑に落ちたのかランスロットは一呼吸置いて立ち上がった。その態度は、自分の発現が正しくはあったのか。と安心できるもの。俺は静かにランスロットを目で追った。
「確かに信長が言っているのは一理ある。特に夜。皆が寝静まるはずの夜にも関わらず、やられては流石に考えると言うものだ。当然、こちら側の情報と言うのは優勢だと思わせる嘘の情報だろ?? 鉄を叩く音、物流の見込み。それが加われば……。信長も言っていた。そう、説得力になるって」
流石戦いの手練。俺が口にするよりも倍、説得力があるのは言葉じゃない。凛とした佇まいに尊厳足るものが、体の隅々が芳醇なまでに放たれているからに違いない。
「だが、信長……お前は一体なんなんだ? なぜ、そんな機転が思いつく? どんな戦いを今まで──いいや、よそう。詮索屋は嫌われるだけだな。私は信長の案に賛同する」
俺の肩を後ろから叩く。その力強く。そして、痛みは俺に勇気をくれた。そりゃそーだ。口にしたのは言いが、何を言われるかは不安でしかなかった。そして、論破されるのだって怖かったし。だが、心強い後ろ盾が物凄い安心感をくれる。
「まあ、そうか? ランちゃんが納得するならいい法なんだろーな。んでも、その後はどうすんだ? 長引かせた所で、所詮はその場しのぎだろ??」
その通り。だが、長引かせたいと思ったのは俺の為にもなる。
「分かってる。さっきもゆったろ? 俺は今この国の情勢を全く知らない。だから、歩き回り情報を得たいんだよ。そして、答え……策を考えたい」
出来る限り力強く。成る可く貫禄が出てるだろうと思いながらアーサーの赤い瞳を見つめる。きっと、魔王、織田信長だったならばそんな演技も要らずにランスロットと同じく醸し出すものがあるのだろう。職人には職人のオーラがあるように、騎士には騎士のオーラが有るのだろうから。
「要は、その為にも、時間が必要。故に、それを見越しての時間稼ぎって事か?」
「……ぁあ、そうだ」
「クク……ハハハッ!! お前、やっぱりおもしれえ奴だよ。帰りたいと媚びずに、ここに来て数時間足らずで、逆に物事をここまで考える。分かった、お前の意見を汲み取ろうじゃねーか。そっちの指揮はガヴェインに任せた。──あと、一室を信長に。専属でパーシヴァルをつけてやれ」
確かにそうだ。いつの間にか、俺は帰りたいと言う気持ちよりも策を講じる方に傾いていた。
何故だ、と考えた時に俺はその原因がアーサーにあると行き着いた。あの時、俺に言った『騎士、織田信長』その言葉に心酔したのかもしれない、と。
「ぁあ、あと分からないことはマーリンとかに聞いてくれればいいや。細々した事は俺達で話しておく。信長、お前はもう休んでおけ」
そう言われて、初めて時間と言う概念をここに来て俺は気にした。
──夜かよ!!
「んじゃあ、改めて聞こう。この窮地を信長はどう見る?」
窮地をどうみる……か。アーサーが言いたいのは“救えるか”とかそんな単純では無い事をさっきの会話で俺は分かった。分かったからこそ、もっと考えるんだ。足りないものを探せ……。
アイツらは何故すぐにでも攻めてこない? 大衆を募らせれば大打撃を喰らいながらも間違いなく進行は出来る。それなのに攻めてこないのは何故……か。
思い出せ、歴史の映画やゲームでの場面を。まるで、状況を確認しながらのような進行する様は何故か。
「アーサー王は」
「アーサーでいいぞ。信長」
「そ、そうか? ん、んじゃあ改めて。逆に、この窮地で、アーサーはどうしたいんだ??」
アーサーは、傍から見ても力強く握っていると分かる程、編んだ指を赤く滲ませ。強い視線で俺を穿つ。その眼力に慄きながらも、その瞳を見つめた。
「勝ちたい以前に被害を最小限に。死人をなるべく出したくねぇ」
「だよな……」
それは本心だろう。そして、それが皆を率いるに足る器あってこそなんだと俺は思った。
ケルト民族は本来、死んでも次がある。と言う考えだったらしい。要するに、死は終わりじゃなく始まり。故に、死を恐れる事がまず少なかった。だが、今アーサーが発言したそれは死を重んじ敬う心だ。本心で、強がらずに口にしたソレに答えなければならないな。
「とりあえず、戦いを長引かせよう」
「やれやれ、君はおバカか?? アーサーも言っていたじゃないか。『被害を最小限に』って。長引かせたら、その分被害を被る。やはり、君は」
コイツは本当に俺が気に食わないんだな。すげぇ嫌味ったらしい言い方をチョイスしやがって。流石にそんな言い方されんのはイライラする。だから若干威嚇混じりに、
「いやいや。何を言ってる? と言うか何を想像してる? グィネヴィア。誰も戦いを始めたあとの話をしてるんじゃない」
「ハハハッ! だそーだぞ? グィネヴィア」
「──チッ」
いや、舌打ちしたいのはコッチだから。イケメンだしハンサムだしズルイから!! 俺なんか
しがない高校生だから!! 黒髪だし、目も一重だし、身長も体重も平均だし! イケメンなんて爆破してしまえ!! ね? ガヴェインさん!? と、取り乱してしまった。ごめんなさい、ガヴェインさん。
「まず、俺が思うに此処にすぐ攻めてこないのは“恐れ”があるからなんだ。どんな強い猛獣も初めは警戒から入る。そして、隙を見計らい襲いかかる。ならば、警戒モードを上げさせればいい」
「と言うと?? 私には中々、想像つかないんだが?」
ランスロットは、眉を顰め必死に想像してる様子を見せる。どうやら、皆ちゃんと耳を傾けてくれているらしい。そう一番感じるのは、目を閉じ俺の話を静かに聞いてくれてるアーサーだ。あんな、ワチャワチャな人が……だ。
「アーサー王。寝ては駄目ですよ……」
「──うにゃ? べ、別に寝てねーし!! 目を閉じて聞いてただけだし!!」
「アーサー王、コレで涎をお拭き下さい」
「──あ、ありがとう。マーリンッ」
──こいっつら!! 必死に考えたのに!!
「で?? トイレが何処かって?」
「それは、アンタの夢の中の話だろ!!」
「ハハハッ。ちげーねぇ。どーも、説明は苦手でな」
頭を掻き、椅子の横に立てかかった剣を握り空で振るいながら『俺は体を動かすのが基本』とでも訴えるかのようにアピールする。だが、その鞘に入った剣については俺も気にならずには居られなかった。少し話は脱線するが、
「その剣が、妖精の加護を受けし剣“エクスカリバー”なのか??」
「騎士様、なぜそ」
「エクスカリバー? なんだそりゃ。これは“エクスカリボー”俺が引き抜いた剣だが?」
まだ手にしていない? となると、やはりこの戦いはアーサー王伝説の石垣になる場面と言う事か。
「言い間違えた。すまんすまん! でだ、話を戻そう。あの壁は遮る為に有るんだよな??」
それは、マーリンの魔術によって見た光景に入り込んだ長い壁。高いかどうかは、分からないが乗り越えて来ないことから高いのだろう。
「はい、そう伝えられております」
マーリンは、何かを考えているのか、さっきよりも元気がないようにも見える。
だが、聡いマーリンの事だ。すぐに答えに行き着くだろう。
「あそこに半分の兵士を集ませる事は出来るか??」
「ん? さっき戦いはしないと言わなかったか??」
「戦いはしない。が、威嚇をする。士気を下げる事に徹するんだ」
腕を組み、沈黙する者。天井を見ながら、イメージをしているのか口をパクパクさせてる者。三者三葉すぎる反応だが、きっと思考を凝らしているに違いない。
あの文句を垂らしていたグィネヴィアですら黙っている。
よしゃ勝った!
「だぁぁっあ!! わっかんねぇえ! どう言う事だよ??」
一番初めに痺れを切らしたのは当たり前のようにアーサー。つか、考えていたのかすら怪しいけどな。
「この時代にも鉄がある。こっちが臨戦態勢だと言うのを知らしめるんだ。昼夜問わずに鉄を叩け、昼夜問わず火を炊け、昼夜問わず鬨の声をあげよ、会話は成る可く大きい声で。その中には時々、嘘の情報を織り交ぜるんだ。一日も欠かさずに毎日」
「そんなんに、意味があるのか??」
意味があるのか? と聞かれたら、あるとは言えない。何故なら試した事なんか一度も無い。見た事があるだけの事。だが、俺にはそんな当てにならない知恵しかない。当然実力がある訳でもないんだ。
「なるほど……」
顎に手を付き、腑に落ちたのかランスロットは一呼吸置いて立ち上がった。その態度は、自分の発現が正しくはあったのか。と安心できるもの。俺は静かにランスロットを目で追った。
「確かに信長が言っているのは一理ある。特に夜。皆が寝静まるはずの夜にも関わらず、やられては流石に考えると言うものだ。当然、こちら側の情報と言うのは優勢だと思わせる嘘の情報だろ?? 鉄を叩く音、物流の見込み。それが加われば……。信長も言っていた。そう、説得力になるって」
流石戦いの手練。俺が口にするよりも倍、説得力があるのは言葉じゃない。凛とした佇まいに尊厳足るものが、体の隅々が芳醇なまでに放たれているからに違いない。
「だが、信長……お前は一体なんなんだ? なぜ、そんな機転が思いつく? どんな戦いを今まで──いいや、よそう。詮索屋は嫌われるだけだな。私は信長の案に賛同する」
俺の肩を後ろから叩く。その力強く。そして、痛みは俺に勇気をくれた。そりゃそーだ。口にしたのは言いが、何を言われるかは不安でしかなかった。そして、論破されるのだって怖かったし。だが、心強い後ろ盾が物凄い安心感をくれる。
「まあ、そうか? ランちゃんが納得するならいい法なんだろーな。んでも、その後はどうすんだ? 長引かせた所で、所詮はその場しのぎだろ??」
その通り。だが、長引かせたいと思ったのは俺の為にもなる。
「分かってる。さっきもゆったろ? 俺は今この国の情勢を全く知らない。だから、歩き回り情報を得たいんだよ。そして、答え……策を考えたい」
出来る限り力強く。成る可く貫禄が出てるだろうと思いながらアーサーの赤い瞳を見つめる。きっと、魔王、織田信長だったならばそんな演技も要らずにランスロットと同じく醸し出すものがあるのだろう。職人には職人のオーラがあるように、騎士には騎士のオーラが有るのだろうから。
「要は、その為にも、時間が必要。故に、それを見越しての時間稼ぎって事か?」
「……ぁあ、そうだ」
「クク……ハハハッ!! お前、やっぱりおもしれえ奴だよ。帰りたいと媚びずに、ここに来て数時間足らずで、逆に物事をここまで考える。分かった、お前の意見を汲み取ろうじゃねーか。そっちの指揮はガヴェインに任せた。──あと、一室を信長に。専属でパーシヴァルをつけてやれ」
確かにそうだ。いつの間にか、俺は帰りたいと言う気持ちよりも策を講じる方に傾いていた。
何故だ、と考えた時に俺はその原因がアーサーにあると行き着いた。あの時、俺に言った『騎士、織田信長』その言葉に心酔したのかもしれない、と。
「ぁあ、あと分からないことはマーリンとかに聞いてくれればいいや。細々した事は俺達で話しておく。信長、お前はもう休んでおけ」
そう言われて、初めて時間と言う概念をここに来て俺は気にした。
──夜かよ!!