円卓会議01
文字数 3,239文字
「サクソン人? ……って、なんだ??」
完璧な蚊帳の外。信長は、いくら自分が知っている少ない知識を振り絞っても“サクソン人”は出てこない。窮『きゅう』するのは
当たり前だった。
「あー、そーかそーか。信長は今のこの情勢をしらないのか……。マーリン、話してりな」
どうやら、マーリンが言った“無下にしない”と言うのは本当らしい。
気まづそうに、頭を下げる信長の横でマーリンは立ち上がるとアーサー王の横まで行き着き、
「他の皆様は、知られていると思いますが。アーサー王は“ブリトン人”です。そもそも、ブリトン人とは“ケルト民族”と“ローマ人”との間に産まれた“子”」
その話は、少しばかし齧る程度知っていた。このブリテン島をローマ人が制圧した話からなるもの。とは言っても、数百年も前の話だとも言われていた。
「しかし、このブリテン島は他の民族も居ます。それが“ピクト人”と海の彼方からやって来たと言われる“サクソン人”です。
彼等は徒党を組み今や半分以上の領土を我が物としており、壁一枚先には蠢く彼らがいるのです。彼等を鎮圧しなければこの国に安泰は考えられません。
そんな中に現れたのが王足る資格を持つアーサー王なのですよ。我々は立ち向かわなければなりません。民の為に国の為に」
その話し方は、信長に対し懇切丁寧に説明する訳ではなく。その中にも周りを鼓舞するような力強い言い方。
それを、授業を受けるが如くマーリンをじっと見つめていた信長が感じていた。
最後に目が合うと、
「つまりはそう言った事なんです。今の情勢はかなり切迫しています。いつ壁を破られるかも分かりません」
「まー、その為に兄貴が見回り行ったりしてんだけどな?」
信用しきっているのか、その緩んだ表情からは安心を感じざるを得ない。
その“兄貴”と言う存在が若干気になりながら、
「えっと、それなら一つ質問良いかな?」
遠慮気味に、肘を伸ばさず手を上げる。アーサー王は“ニヤリ”と笑を浮かべながら『おー、言ってみろや』とでも伝えるかのように大きく頷く。
信長は皆の視線を感じ、白い円卓を瞳に写し。そして、緊張の為に再び出た唾を喉を鳴らし飲み込むと、
「俺は一体何の為に召喚されたんですかね……?」
「そりゃあ、お前が神が認めた。神徒だからだろ?」
そう言えば。と、出会い頭にも言われていた事を思い出し、それに対してもまた疑問を抱く。
「えっとそ」
「あー!! もう、今はそんな事はどうでもいいんだよ。知恵を働かせんだよ!!」
チマチマとした事を嫌うのか、アーサー王は髪の毛を掻き上げ眉間にシワを寄らせながら話を気持ちよく折り曲げた。
そんな彼女を見て、湖の騎士ランスロットが黙っている筈もなく、呆れ混じりの溜息を吐き、
「アーサー、少しは忍耐を覚えなさいよ。信長は何も知らないのよ?」
口調は至って冷静で、緊張した信長ですら聞き損じる事なく一字一句頭に入ってくる。
「そこらへんは、マーリンが説明するのが早いでしょーがあ! 今は、そんな事よりも……だろ!!」
「はい、説明はお任せ下さい」
「マーリン……。貴女、アーサーを甘やかしすぎよ……」
言葉を無くしたのか、それ以上ランスロットが口を開くことはなく。杯に注がれた飲み物を一口溜飲して大きく息をついた。
先程から肩を持ってくれたランスロットに感謝をしつつ信長は『続きを話してくれ』と促した。
マーリンはそれに頷くと、
「使い魔の情報によると……って、こればかりは見てもらった方が早いですね」
──見る? どーやって?
マーリンは、円卓を回るように次々と騎士の頭を触り始めた、当然信長も訳が分からないまま額を触れられる。慣れているのだろう、目を瞑る他の騎士達をアタフタと見渡すが、暫くして瞼を閉ざす。
「ではいきます……インプレシオ──」
──な、なんだこれ。
きっと、此処の皆が観ているであろう映像。それは、遥上空から投影されていると思わせる。
広大で緑溢れた地上が広々と視界に入り、緑色が続く中、次第に違う色が疎らに映り込む。円形の形状からするにテントか何かだろうか? 先に進むにつれて緑よりもテントの色が大地を占め始める。正直、計り知れない量だ。
上空からみてこの圧力ならば、地上からならもっとスゴイに違いない。信長は畏怖しつつ汗を滴らせる。と、同時にアーサー王は本当にこんな数を相手にしたのかと感動もしていた。
「と、まあこんな所ですね。私達の防衛ラインも尽く突破され、あとが無い状況」
傷心しきった様子で目を伏せるマーリンも気になるが、何故かコチラをじっと見つめる赤い視線が気になって仕方が無かった。だが、目を合わせたら何か言われそうな気がしてひたすらにマーリンを見つめていると、
「おい、信長」
──ぁあ、やっぱりそうきますか……。
見事に嫌な事を的中させ、深い息を吐き、
「な、なんですかね?」
きっとこの流れから楽しい事は言われない。そんなフラグを感じつつ信長は力無い瞳でアーサー王を捉えた。
誰もと目に入らないのは、真面目な会談だとわかっての事なのだろう。その重たい雰囲気が余計に喉を重たくさせる。
「お前は、これをどう見る? 圧倒的な兵力の差だ。防衛に回した兵士は吉報を持ってくることもない。お前は……いや、騎士織田信長はこの危機的状況をどう見る?」
その意図はなんなのだろうか。と、まず初めに考えた。勝ち負けの事を言っているのだろうか。消去法で、少し知ったアーサー王の性格を考えつつ答えを導き出してゆく。
──勝ち方を言っているのか。
──策を考えろと言ってるのか。
暫く考えて出た答えは“否”だった。
「俺には分からない」
信長は、諦めた様な投げやりな言い方では無く。強い意思を感じらせる言い方をする。王との謁見ならば間違いなくタダではすまないであろう。しかし、此処は円卓。それを考慮した上でその発言を選んだ。
「ほー。なるほどな? で、分からねーとはどう言った意味があんだ? まさか、考えすらつかないってマヌケな事じゃねぇだろーな?」
煽るように捲し立てる。
それでも冷静に首を振り、
「違う、俺は確かなものじゃない事を言いたくないだけだ。ここに来て数時間。分かった事は分からない事だらけだって事。そんな俺が勝ち負けを。奇策を。思いつくはずもない。そんな気休めを言った所で何になる? いいや、それを一番分かっているのはアーサー王。アンタじゃないか??」
「本気で言ってんのか? テメェ、俺の言葉を蔑ろ『ないがしろ』にする気か?」
重々しい、ドスの聞いた声が、野獣の如く視線と共に鼓膜から襲いかかる。
「蔑ろにしてるつもりは無い。だけど事実だろ? 嘘は説得力があっても覆す力は無いんだよ」
鳥の囀りが良く響く程の沈黙。
居心地のよいものではないだろう。
「ははは……ははははッッッ!! お前なかなかおもしれえ奴だな?? いやぁ、おもしれぇよ!! こりゃー気にったぜ。マーリン! 慈悲あるお告げも、気休めも口にしねぇ!!こいつぁ神の使いなんかじゃねー! 魔王だぜ!!」
膝を大いに叩き、真剣に言った言葉を嘲笑うかのように声を吐き出す。
──魔王って……。
「だが──戦場には神よりも魔王が必要だ。力を貸してくれ織田信長」
その光景は、一生見る事はないであろうものだった。
あの勝気な負けん気の強いアーサー王が、円卓スレスレまで額を近づけているのだから。
「アーサーはね、ガサツで口も悪いけどこの国を一番に思っているのよ。力を貸してくれないかしら? 私からもお願いするわ」
その言葉を聞いて、過去の説明よりも先を急いでいた理由がやっと信長の心にも行き届いた。
「お、俺で良ければ……」
完璧な蚊帳の外。信長は、いくら自分が知っている少ない知識を振り絞っても“サクソン人”は出てこない。窮『きゅう』するのは
当たり前だった。
「あー、そーかそーか。信長は今のこの情勢をしらないのか……。マーリン、話してりな」
どうやら、マーリンが言った“無下にしない”と言うのは本当らしい。
気まづそうに、頭を下げる信長の横でマーリンは立ち上がるとアーサー王の横まで行き着き、
「他の皆様は、知られていると思いますが。アーサー王は“ブリトン人”です。そもそも、ブリトン人とは“ケルト民族”と“ローマ人”との間に産まれた“子”」
その話は、少しばかし齧る程度知っていた。このブリテン島をローマ人が制圧した話からなるもの。とは言っても、数百年も前の話だとも言われていた。
「しかし、このブリテン島は他の民族も居ます。それが“ピクト人”と海の彼方からやって来たと言われる“サクソン人”です。
彼等は徒党を組み今や半分以上の領土を我が物としており、壁一枚先には蠢く彼らがいるのです。彼等を鎮圧しなければこの国に安泰は考えられません。
そんな中に現れたのが王足る資格を持つアーサー王なのですよ。我々は立ち向かわなければなりません。民の為に国の為に」
その話し方は、信長に対し懇切丁寧に説明する訳ではなく。その中にも周りを鼓舞するような力強い言い方。
それを、授業を受けるが如くマーリンをじっと見つめていた信長が感じていた。
最後に目が合うと、
「つまりはそう言った事なんです。今の情勢はかなり切迫しています。いつ壁を破られるかも分かりません」
「まー、その為に兄貴が見回り行ったりしてんだけどな?」
信用しきっているのか、その緩んだ表情からは安心を感じざるを得ない。
その“兄貴”と言う存在が若干気になりながら、
「えっと、それなら一つ質問良いかな?」
遠慮気味に、肘を伸ばさず手を上げる。アーサー王は“ニヤリ”と笑を浮かべながら『おー、言ってみろや』とでも伝えるかのように大きく頷く。
信長は皆の視線を感じ、白い円卓を瞳に写し。そして、緊張の為に再び出た唾を喉を鳴らし飲み込むと、
「俺は一体何の為に召喚されたんですかね……?」
「そりゃあ、お前が神が認めた。神徒だからだろ?」
そう言えば。と、出会い頭にも言われていた事を思い出し、それに対してもまた疑問を抱く。
「えっとそ」
「あー!! もう、今はそんな事はどうでもいいんだよ。知恵を働かせんだよ!!」
チマチマとした事を嫌うのか、アーサー王は髪の毛を掻き上げ眉間にシワを寄らせながら話を気持ちよく折り曲げた。
そんな彼女を見て、湖の騎士ランスロットが黙っている筈もなく、呆れ混じりの溜息を吐き、
「アーサー、少しは忍耐を覚えなさいよ。信長は何も知らないのよ?」
口調は至って冷静で、緊張した信長ですら聞き損じる事なく一字一句頭に入ってくる。
「そこらへんは、マーリンが説明するのが早いでしょーがあ! 今は、そんな事よりも……だろ!!」
「はい、説明はお任せ下さい」
「マーリン……。貴女、アーサーを甘やかしすぎよ……」
言葉を無くしたのか、それ以上ランスロットが口を開くことはなく。杯に注がれた飲み物を一口溜飲して大きく息をついた。
先程から肩を持ってくれたランスロットに感謝をしつつ信長は『続きを話してくれ』と促した。
マーリンはそれに頷くと、
「使い魔の情報によると……って、こればかりは見てもらった方が早いですね」
──見る? どーやって?
マーリンは、円卓を回るように次々と騎士の頭を触り始めた、当然信長も訳が分からないまま額を触れられる。慣れているのだろう、目を瞑る他の騎士達をアタフタと見渡すが、暫くして瞼を閉ざす。
「ではいきます……インプレシオ──」
──な、なんだこれ。
きっと、此処の皆が観ているであろう映像。それは、遥上空から投影されていると思わせる。
広大で緑溢れた地上が広々と視界に入り、緑色が続く中、次第に違う色が疎らに映り込む。円形の形状からするにテントか何かだろうか? 先に進むにつれて緑よりもテントの色が大地を占め始める。正直、計り知れない量だ。
上空からみてこの圧力ならば、地上からならもっとスゴイに違いない。信長は畏怖しつつ汗を滴らせる。と、同時にアーサー王は本当にこんな数を相手にしたのかと感動もしていた。
「と、まあこんな所ですね。私達の防衛ラインも尽く突破され、あとが無い状況」
傷心しきった様子で目を伏せるマーリンも気になるが、何故かコチラをじっと見つめる赤い視線が気になって仕方が無かった。だが、目を合わせたら何か言われそうな気がしてひたすらにマーリンを見つめていると、
「おい、信長」
──ぁあ、やっぱりそうきますか……。
見事に嫌な事を的中させ、深い息を吐き、
「な、なんですかね?」
きっとこの流れから楽しい事は言われない。そんなフラグを感じつつ信長は力無い瞳でアーサー王を捉えた。
誰もと目に入らないのは、真面目な会談だとわかっての事なのだろう。その重たい雰囲気が余計に喉を重たくさせる。
「お前は、これをどう見る? 圧倒的な兵力の差だ。防衛に回した兵士は吉報を持ってくることもない。お前は……いや、騎士織田信長はこの危機的状況をどう見る?」
その意図はなんなのだろうか。と、まず初めに考えた。勝ち負けの事を言っているのだろうか。消去法で、少し知ったアーサー王の性格を考えつつ答えを導き出してゆく。
──勝ち方を言っているのか。
──策を考えろと言ってるのか。
暫く考えて出た答えは“否”だった。
「俺には分からない」
信長は、諦めた様な投げやりな言い方では無く。強い意思を感じらせる言い方をする。王との謁見ならば間違いなくタダではすまないであろう。しかし、此処は円卓。それを考慮した上でその発言を選んだ。
「ほー。なるほどな? で、分からねーとはどう言った意味があんだ? まさか、考えすらつかないってマヌケな事じゃねぇだろーな?」
煽るように捲し立てる。
それでも冷静に首を振り、
「違う、俺は確かなものじゃない事を言いたくないだけだ。ここに来て数時間。分かった事は分からない事だらけだって事。そんな俺が勝ち負けを。奇策を。思いつくはずもない。そんな気休めを言った所で何になる? いいや、それを一番分かっているのはアーサー王。アンタじゃないか??」
「本気で言ってんのか? テメェ、俺の言葉を蔑ろ『ないがしろ』にする気か?」
重々しい、ドスの聞いた声が、野獣の如く視線と共に鼓膜から襲いかかる。
「蔑ろにしてるつもりは無い。だけど事実だろ? 嘘は説得力があっても覆す力は無いんだよ」
鳥の囀りが良く響く程の沈黙。
居心地のよいものではないだろう。
「ははは……ははははッッッ!! お前なかなかおもしれえ奴だな?? いやぁ、おもしれぇよ!! こりゃー気にったぜ。マーリン! 慈悲あるお告げも、気休めも口にしねぇ!!こいつぁ神の使いなんかじゃねー! 魔王だぜ!!」
膝を大いに叩き、真剣に言った言葉を嘲笑うかのように声を吐き出す。
──魔王って……。
「だが──戦場には神よりも魔王が必要だ。力を貸してくれ織田信長」
その光景は、一生見る事はないであろうものだった。
あの勝気な負けん気の強いアーサー王が、円卓スレスレまで額を近づけているのだから。
「アーサーはね、ガサツで口も悪いけどこの国を一番に思っているのよ。力を貸してくれないかしら? 私からもお願いするわ」
その言葉を聞いて、過去の説明よりも先を急いでいた理由がやっと信長の心にも行き届いた。
「お、俺で良ければ……」