何かがおかしいパーシヴァル

文字数 3,149文字

暫く歩くと外に薄ぼんやりと塔らしきものが見えた。その見え方からするに、近くはないだろうが、それでもシッカリと見える。さながら、空の木のようだ。



「マーリン、ちょっといいかな??」



「はいです??」



「歩きながらで、良いんだけど。あの見える塔ってなんなんだ?」



「ぁあ、あれですかっ?  今は建造中止してるんですよねっ」



チラリと塔の方を見て、平坦な口調で質問に応える。だが、そう言われれば理由を聞きたくなるのが性『さが』と言うものだ。

信長は、例に乗っとるように、

「建造中止?  また、なんで?」



「んー、話すと長くなるのですが……。私がアーサー王の父ウーサー様に仕えていた時の物なんですよね。



──この話は追々にするとして。



端的に言えばあの場所には赤と白、二匹の龍が激しい喧嘩をしてるんです。それで混ざった地盤は固まらずに、当然重みに耐えられず崩れてしまうんです。どちらかが勝つまでその戦いは終わりません、故に今は大事な時期なんですよ」



悪魔や妖精が居る世界。今更、龍と言うワードが出てきても対して驚く事は無い。それよか、納得すらすんなりしてしまう。が、それと大事な時期と言う繋がりが全くもって理解出来ずにいた。そして、それよりも信長の興味を引いたのは、

「ちょっ!!  ま、まって!  マーリンって今いくつなの!?」



見た目は確実に若い。信長と同等か、少し年上ぐらいだろう。だが、先代。伝説上では、マーリンの魔術により化け、見初めた女性の旦那のフリをして夜を明かし。その間に身ごもったのがアーサー王だと言われている。なんとも、まあドロドロな話だ。このアーサー王伝説とは意外とそう言った話が多い。

だがマーリンが現状、女性という事で現実はそんな事はないと信長は願いつつ聞いた。



すると、影を作り不適な笑を浮かべ、

「騎士様??   女性に年齢を聞くのは死に急ぎますよっ??」



──何それ怖い!



思わず竦然『しょうぜん』しながら、釣られ笑いをする。

信長が、改めて女性の怖さを知った時だった。



「あははは、じょーだんですとも。そそれよりもまだですかね??」



「ふふふ、騎士様?  動揺なさってるのが丸わかりですよ??  まあ、歳を訪ねたくなるほど若く見られたって事にしときますね?」



救いの言の葉が舞い降りた。

その言葉にホッと息を付く。



──魔術師とかに死ぬとか言われっとリアル過ぎて怖いからっ!





「マーリンさまあ!!」



肩を落ち着かせると同時ぐらいに後方から甘い声が響く。

と、同時に早い足音。どうやら、駆けて来ているらしい。皆が振り向くのに連なるように信長も振り向く、

「メイド??──つか、でかっ」



目線は既に膨らみへと釘付け。



「騎士様。鼻の下伸びてますよ……」



「え、あ、あ……すぅぃません……」



しかし、“ゼェハァ”と、膝に手を付き前屈みなるメイドはそんな理性を吹っ飛ばすほどに、



──たゆんたゆんだと……ッ!!



そんな男性の欲望をそのまま形にしたような豊胸『ほうきょう』……いや、宝胸『ほうきょう』からわざとらしく視点を逸らすと、何故かマーリンと目が合った。どうやら、無意識下で信長はマーリンが無難だと解をだしたらしい。



聡い『さとい』であろう彼女は、すぐさまに視点を下にずらし自分の胸を瞳に写し、満遍な笑顔を、それはもう女神顔負けの美しい笑顔を浮かべた。



言葉はないが殺意がある。そんな笑顔だと感じたのは他でもない堪らず鼻白む信長。

そんな彼に、口角をあげたまま、

「どうかなさいましたかっ?  騎士様ッ??」



「え、いや、いい天気ですねっ?」



「今日は曇りですよッ?」



「はうっ……!!」



黙秘権を行使している訳でもないが黙り込む。

それは確実に後ろめたい事があってのことだ。言い訳をしたいが、その言い訳をしたら一生軽蔑されかねないであろう。そんな呪いの言葉を喉の奥にしまい込む。助けを、誰か話題をと下を向きながら付き人を見る。が、そう仕込まれているのか、それとも魔術的な何かで創られているのか。付き人は微動打にもせずに、ただ正面を向いていた。その光景は、正直異様。



「騎士様、紹介しますね?  彼女は“パーシヴァル”この宮殿に仕えるメイドです」



「まだ、新米ですうー」



眠たそうな緑色の目で信長を写しながら、琥珀色の耳が被る程の短い髪を“ポリポリ”掻き、丁寧に頭を下げるパーシヴァル。



そのおっとりとした表情や口調。はたまた、豊かな胸に反応を示したのではなく、その名前に信長は強く見つめた。



「今、パーシヴァルっつった??」



「はいですー、わたしのー名前わあ、パーシヴァルですよお」



失礼ながらも、指を指したまま動かない信長の手をそっと下に下ろしながら、

「はい、彼女は正真正銘のパーシヴァル。古くから仕える“ぺリノア”の娘です」



壊れかけたゼンマイ式人形のように、“ギギギ”

と横を向き、遠い目をしながら、

「此処って本当にブリテン??   何かのお芝居でドッキリとか??」



「ドッキリ?  何です?  それは?  此処は間違いなくブリテンですよ?」



錯乱。冷静さを欠くのではなく失っていた。



──此処は本当に過去なのか??



疑問に思わずには居られなかった。



二人が揃って口にした“パーシヴァル”はメイドでも何でもない。それどころか、聖杯に深く関わりを持つ円卓の騎士その一人。



それがどう言う訳か、女性でしかも可愛らしいメイド。それに加え“ぺリノア”とは召使のご氏族ではなく王の一族だった筈。と、歴史を辿る。



要するに、此処に来てから一度も過去の人物像と当てはまっていない。



此処はまるっきり違う世界。そう割り切ってしまえば楽かもしれない。

しかし、そう出来ない理由があった。それは縋るものが無くなると言う不安。

情報を零にして、一から関わっていくと言うのは恐怖でしかない。頼るものが一つもなくなるのはどうしても信長は避けたかった。故に、認めたくなかった。



「大丈夫ですか?  騎士様。顔色が優れませんよ?  具合でも??」



杞憂した様子を見せながら、脂汗が止まらないだらしない顔を覗き込む。
その眉を寄せたマーリンを視野に入れると、自分すら騙すように笑顔を作り、

「ごめん。少し考え事してたんだよ!  パーシヴァルだっけ??  よろしくねっ!!」



「あ、はいですー!」



頬を桜色に染めながら笑顔で受け答えする。



「それで、マーリン?  後で聞きたいことがあるんだよっ」



「はい?  了解です。では、円卓までもう少しです。先を急ぎましょうか。パーシヴァル?  私達は、朝も言った通り円卓に向かうわね」



「はいですー。お気おつけて行ってくださいー」



「気おつけるのは貴女よ?  パーシヴァル。今日は転ばなかったけど、いつも何も無い所で転ぶんだから……」



──巨乳でドジっ子とか。もはや、騎士の片鱗もありゃしねぇ……。



信長は、訳の分からない出来事に振り回されながらも、当初の目的である円卓の会議に向けて歩き出す。

この嫌な流れに、当たり前のように、



「もしかして、これみんな女とかねぇーだろうな」



「はい?  何か言いましたか??」



「え?  いやいや、なにもっ!  楽しみだなって」



「楽しみですか?  あの場を楽しみに出来るのは騎士様ぐらいですよ……」



深い溜息を付きながらジト目で写す。



その意味深な発言に若干疑問に思うも、それでも嫌な事を忘れたい一心もあってだろう。すぐさま高揚感へとシフトチェンジした。



──待ってろー、円卓の騎士!!
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