金子裕天 こと 御当地ヒーロー「猿神(ハヌマン)」(1)

文字数 910文字

「おい、大学はどうした?」
 遅めの朝食を食ってると、ややこしい関係の育ての親であるおっちゃんがそう言ってきた。
「今日、受ける筈だった講義の担当の先生が風邪と過労で寝込んで臨時休講」
「絵に描いたような医者の不養生だな」
「おっちゃんこそ、表の仕事はどうしたの?」
「もう、齢で腰が……」
「裏の仕事、そろそろ引退したら?」
「おい、まさかお前、せっかく医大に入れたのに、俺の裏の仕事を継ぐ気なのか? 適当な所で手を引け」
 おっちゃんの表の仕事は、久留米市内に何軒か支店が有るうどん屋のオーナー。
 裏の仕事は……「正義の味方」「御当地ヒーロー」。それも、日本で最初に「正義の味方」「御当地ヒーロー」を始めた通称「最初の7人」の1人だ。
 裏の仕事では、二〇年以上のベテランで、しかも裏の仕事を始めた時点で四〇前後だったらしい。
 僕も高校の頃に、成行きで「正義の味方」「御当地ヒーロー」の仕事に関わってしまった。
 もちろん、おっちゃんや、おっちゃんが属するチームのリーダー格である通称「お上人さん」には猛烈に反対されたが……気付いた時には3年以上、学生と「御当地ヒーロー」の二足の草鞋を履き続けている。
「わかったよ……適当な所で……」
 その時、携帯電話(ブンコPhone)に着信音。
「へ?」
「どうした?」
「瀾だ……」
『あ……兄貴、今日、大学休みか?』
「そうだけど……」
 嫌な予感しかしない。
『家を出た途端、変な奴に尾行されてる。尾行に関しては素人で、腕も大したことは無さそうだ。武器は持ってたとしても小型の刃物。異能力持ちかは不明。ただ……人数が多い』
「お前なら……尾行の素人ぐらい撒けるだろ」
『でも……万が一と云う事が有る。どうしたらいいと思う?』
「どうしたら……って、何がやりたいんだ?」
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 幼い頃から、ちょっと問題が大有りの父親によって「正義の味方」になるべく育てられた瀾は……多分、戦闘術の腕前なら僕より上だが……でも……いや、待て。
「今、『私達』って言ったか?」
『ああ、妹も一緒だ』
 あ〜あ……。
 ややこしい事になってるようだ……。
 つまり……町1つ一瞬で滅ぼせる怪物を尾行してるマヌケが居る訳か……。
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