第3話

文字数 538文字

「働ける場所紹介してやるから。」
その男はやっと私を腕の中から解放してくれる。そういえば、ずっと抱き合ってるみたいだったじゃん!ほんとに何なの!この男!
「私にはいらない!」
「さっき助けてって言ったやつはどこの誰だよ!」
「それは……。」
言葉に詰まる。言い返せないでいる私の前で、そいつは自分の上着を脱いだ。
「濡れてるのに濡れてる上着着てもだけど。」
私の肩に上着をのせる。でも
「冷た!」
「やっぱ逆効果か?」
逆効果だよ!
「でも、こうすれば顔隠せるだろ。」
フードをボフッて被せられたら、視界の上部が遮られる。
「ん!これなら警察にも捕まんねーな。よし!」
まだまだ雨は降り続いている。水が靴や服にしみ込んで、手足の先から冷たくなってくる。このままだと風邪ひきそう。
「いいか?」
そいつは私を立たせると、もう一度しっかりフードを被せる。下から覗くように目を見つめられて、あいつの真剣な視線が私の胸に突き刺さる。
「まだ警察はお前を探してるはずだ。ここを出たら、振り向かずに走れ。まっすぐ行って、3つ目の角を右に曲がれ。カフェ『エスポワール』って店がすぐに見えるはずだ。そこなら、お前を雇ってくれるはずだ。」
「エスポワール?」
「あぁ。一年後、見に行くからな。しっかり働けよ!」
「保証はしないけど。」
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登場人物紹介

花森くるみ

両親がいない女子高生。

安上彩子

カフェ『エスポワール』を経営している。くるみを引き取る。

山影浩平

カフェの常連さん。くるみを助けた人。

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