5話 着いて早々
文字数 1,618文字
一人での電車旅はアランとって12年ぶりの事であった。それも丸々1両を貸し切っているために元々孤独が好きなアランは誰もいない6人用座席に横になってくつろいでいる。
「こいつはいいや、当分こうしていてぇ…… 」
その時、『間もなくルクルッド、ルクルッドに到着致します』と車内アナウンスが流れたのでアランは仕方なく体を起こして唯一の制服となる黒のロングコートを着用して身支度を整え始めた。
「一昔前まではカーヴァルからルクルッドまで電車で2日かかったというのに今じゃ半日かよ。なんというかまぁ、時代だな」
列車が駅に差し掛かる最後のカーブを抜けたその時、突然大きな爆発音がアランの耳に飛び込んできた。
「なんだぁ? 」
急いで窓を開ける。そこには煙突が一部剥がれ落ち、煙を吹いている駅舎と蟻の子を散らしたように逃げ惑う人々の姿があった。
「はぁ、まさかテロでもあるまいしな…… 」
アランが呟いたと同時に『車掌』の腕章をつけた軍人がアランのいる車両に飛び込んできた。恐らく全力で走ったのだろうか多少襟元が乱れている。
「少佐! 『不死者 』です!! 」
「一般人を襲ったのか? 」
「はい、市民を巻き込んだのは今回が初めてで…… 」
「そうか。じゃあここにある荷物は任せた」
そう言うとアランは左手中指の指輪をはめ直し、先程開けた窓から身を乗り出して線路に降りた。余りの初動の速さに付いていけなかった車掌が一拍遅れて窓の外を確認すると、アランは既に駅舎に駆け込んで姿を消していた。
「……あの人、まるで人間じゃないみたいだな」
車掌は静かにアランの鞄を車掌室へと運んでいった。
─────────────────────
肉体強化術式のためにアランは10秒もかからない内におよそ600mを走り抜いたが、駅に着いた時点で既に戦闘が始まっていた。
「動くな! この化け物が!! 」
「それ以上動いたら撃つぞ!! 」
小銃で武装した警官がざっと20人、ズタズタに切り裂かれた男の腕をしゃぶっている異形の頭に狙いをつけて取り囲んでいる。腕と脇の間に膜のようなひだが付いているところを見ると、どうやら蝙蝠 の『キメラ型不死者 』のようだ。
「おい待て! そいつは…… 」
アランが異変に気付いて声をかけようとするも時既に遅し、腕をかじっていた異形の眼光があっという間に正気を失っていった。
「ウ…… ア…… アァァァ!! 」
目が赤く血走った『不死者』が警官に襲いかかる。『不死者』は常に『術力』を消費しながら日常を暮らす。つまり『術力』が、言い換えれば『自分を不死者たらしめるための人間の血』が尽きると『不死者』は元の『死体』を通り越して塵芥へと消えていく。故に『不死者』は血に飢え出すと見境がなくなるのだ。
「ウワァァ! 来るなぁ!! 」
噛みつかれた警官が『不死者』に小銃の弾丸を浴びせかける。大理石の床はみるみる内に朱 に染まり、『不死者』の体を貫通した弾丸が柱に当たり細かく弾けた。
「血が、あぁ…… 血ヲ寄越セェェ!! 」
蝙蝠男が警官の首に手をかける。撃ち抜かれた体は蒸気を上げながら新たな肉を生み出し、穴を塞いでいった。
「撃てェ!! 」
容赦なく弾幕を張る警官たち。しかし『不死者』は腕の膜を使い空に舞い上がった。
「ほーらな、言わんこっちゃない」
呆れたようにアランが天井を見上げる。駅の玄関ホールの天井は高く、どうあがいても銃弾が当たる状況ではなかった。
「貴様! ここで何をしている!! 」
アランに気づいた警官たちが一斉に銃を構える。アランは「今さらかよ」と呟き、身分証を出して答えた。
「俺の名はリー=ブラウン。国家特等錬金術師兼陸軍特務少佐、いわゆる『特別捜査官』よ」
「こいつはいいや、当分こうしていてぇ…… 」
その時、『間もなくルクルッド、ルクルッドに到着致します』と車内アナウンスが流れたのでアランは仕方なく体を起こして唯一の制服となる黒のロングコートを着用して身支度を整え始めた。
「一昔前まではカーヴァルからルクルッドまで電車で2日かかったというのに今じゃ半日かよ。なんというかまぁ、時代だな」
列車が駅に差し掛かる最後のカーブを抜けたその時、突然大きな爆発音がアランの耳に飛び込んできた。
「なんだぁ? 」
急いで窓を開ける。そこには煙突が一部剥がれ落ち、煙を吹いている駅舎と蟻の子を散らしたように逃げ惑う人々の姿があった。
「はぁ、まさかテロでもあるまいしな…… 」
アランが呟いたと同時に『車掌』の腕章をつけた軍人がアランのいる車両に飛び込んできた。恐らく全力で走ったのだろうか多少襟元が乱れている。
「少佐! 『
「一般人を襲ったのか? 」
「はい、市民を巻き込んだのは今回が初めてで…… 」
「そうか。じゃあここにある荷物は任せた」
そう言うとアランは左手中指の指輪をはめ直し、先程開けた窓から身を乗り出して線路に降りた。余りの初動の速さに付いていけなかった車掌が一拍遅れて窓の外を確認すると、アランは既に駅舎に駆け込んで姿を消していた。
「……あの人、まるで人間じゃないみたいだな」
車掌は静かにアランの鞄を車掌室へと運んでいった。
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肉体強化術式のためにアランは10秒もかからない内におよそ600mを走り抜いたが、駅に着いた時点で既に戦闘が始まっていた。
「動くな! この化け物が!! 」
「それ以上動いたら撃つぞ!! 」
小銃で武装した警官がざっと20人、ズタズタに切り裂かれた男の腕をしゃぶっている異形の頭に狙いをつけて取り囲んでいる。腕と脇の間に膜のようなひだが付いているところを見ると、どうやら
「おい待て! そいつは…… 」
アランが異変に気付いて声をかけようとするも時既に遅し、腕をかじっていた異形の眼光があっという間に正気を失っていった。
「ウ…… ア…… アァァァ!! 」
目が赤く血走った『不死者』が警官に襲いかかる。『不死者』は常に『術力』を消費しながら日常を暮らす。つまり『術力』が、言い換えれば『自分を不死者たらしめるための人間の血』が尽きると『不死者』は元の『死体』を通り越して塵芥へと消えていく。故に『不死者』は血に飢え出すと見境がなくなるのだ。
「ウワァァ! 来るなぁ!! 」
噛みつかれた警官が『不死者』に小銃の弾丸を浴びせかける。大理石の床はみるみる内に
「血が、あぁ…… 血ヲ寄越セェェ!! 」
蝙蝠男が警官の首に手をかける。撃ち抜かれた体は蒸気を上げながら新たな肉を生み出し、穴を塞いでいった。
「撃てェ!! 」
容赦なく弾幕を張る警官たち。しかし『不死者』は腕の膜を使い空に舞い上がった。
「ほーらな、言わんこっちゃない」
呆れたようにアランが天井を見上げる。駅の玄関ホールの天井は高く、どうあがいても銃弾が当たる状況ではなかった。
「貴様! ここで何をしている!! 」
アランに気づいた警官たちが一斉に銃を構える。アランは「今さらかよ」と呟き、身分証を出して答えた。
「俺の名はリー=ブラウン。国家特等錬金術師兼陸軍特務少佐、いわゆる『特別捜査官』よ」