3話 その時、男は確かに救世主であった
文字数 2,006文字
アランがエントランスに着いた頃には、既に兵士の骸 が大量に転がっており、阿鼻叫喚の様を呈していた。
隊列を乱しながら銃火器を乱射する兵士たち、それを赤子のように弄 び、切り刻む異形たち。狼男のように外見が他の生物と融合してしまっている者、肉体の一部分が武器に変化してしまっている者、その他種々の『不死者 』が広いエントランスの中を縦横無尽に駆け回り、人を食らっていた。
「食らえ化け物!! 」
狼に変身している不死者に兵士の銃撃が命中する。しかし次の刹那には弾丸は筋肉によって体外に吐き出され、傷口があっという間に治っていく。
「まだ生き残りがいたか…… 今日はビュッフェにでも来ている気分だな」
「来るな…… 来るなぁッ!! 」
兵士が必死の表情で引き金を引く、しかし弾は放たれない。
「あぁ…… アアァァァァ!! やめろォォ!!! 」
狼男がその四肢を力ませ、四つ足で飛びかかった。兵士は目を瞑 るがその時、兵士の耳に聞き慣れない単語が飛び込んできた。
「『ラ・ヴーズ』」
数拍を置いて太い風切音が兵士の頬を撫でる。
「へ? ギャアァァ!!!…… 」
狼男の爪牙が自分の体を切り裂かない、違和感でなんとか正気に戻った兵士が恐る恐る目を開くと、そこには切り飛ばされた狼男の首と、地面に突き刺さった真っ赤な刃の槍が落ちていた。
「ヒッ 」
自分に降りかかった血飛沫を見て兵士が悲鳴を上げる。アランが静かにたしなめた。
「そうビビりなさんな。しかしたくさん殺したなぁこりゃ」
兵士の目に映ったその男はこの戦場に最もふさわしくない姿のをしていた。黒いズボンに革靴、白いシャツ、紺色のファッションジャケットと『不死者』が好んで襲いそうな出で立ちをしていたのだ。
「あんた! 今すぐここから…… 」
「まぁそう言わんと、な? 」
アランが上着を兵士に預ける。兵士は意味が分からずにポカンとしていた。
「キメラが3体、肉体強化5体、武器生成3体…… ま、ここは俺に任せろ」
アランが踵を返して歩き出した。兵士が慌てて止めようとするが、その手をクロウドとその近衛兵が制した。
「死にたくなかったら近付くな。彼は陸軍特務少佐、リー=ブラウン国家特等錬金術師だ」
─────────────────────
踵を返したアランは二、三歩前進し、『不死者』の群れを見渡して口角を上げた。
「結構な量殺したなぁ、こりゃあ俺に殺されても文句言えねぇぞ? 」
アランの不敵な笑みを受け、『不死者』たちは即座に戦闘態勢を取って後ずさりした。
「人間風情で俺らと戦うだと? どんなジョークのつもりだ? 」
『不死者 』の群れを見やりながらアランが槍を引き抜く。赤黒い刃に金属質の柄というどこから見ても重量のありそうな槍を片手で構えたのを見て『不死者』たちはギョッとした。
「なっ!? 」
「たったか失 せろ、化け物が」
小枝を振るかのような速さで槍を振るアラン。先頭に立っていた『不死者』が吹き飛び、豪快な血柱を上げた。
「こいつ、『肉体強化術式』を…… 」
肉体強化術式、それは身体能力を術力によって補完する錬金術の一種である。『不死者』の錬成に使われたもので、今となっては『禁忌 』となっているので基本は使用禁止である。
「お前も『不死者』か? 」
左手を両刃剣と化した『武器錬成型』の『不死者』がアランに問いかけながら構える。その腕は牽制のために水平に伸びている。アランは槍を右肩に担ぎ上げて構えた敵の刃の直前まで歩き、『不死者』の顔の前に指を三本突き立てた。
「『不死者 』のタイプは主に三つ。人間以外の別の生物の外見、能力を手に入れた『キメラ型』、特等錬金術師以外に禁止されている武器の錬成を自分の体の一部でやる『武器錬成型』、そして単純に肉体強化術式のレベルを上げた『筋力型』だ」
アランは緊張感の欠片も見せずに語りかけた。しびれを切らした『不死者』が左手を振り上げるが、アランは敵の斬撃を槍だけで易々と防御した。
「だが、お前ら『不死者』の共通的な対処法は簡単『心臓を潰す』か『頭を胴体から切り離す』だけ」
そういうとアランは余った左手を手刀に構え、『不死者』の胸に突き立てる。ボキボキと肋 の砕ける音を伴って『不死者』の血が地面に滴り落ちた。
「カッ!…… ヒュー、ヒューー……!! 」
「ま、これも俺のお仕事なんでな…… 悪く思うなよッ!! 」
声にならない『肺から空気の漏れる音』を立てながら『不死者』が必死に首を振る。しかしアランは表情を変えることなく相手の心臓を引き抜き、握り潰した。
隊列を乱しながら銃火器を乱射する兵士たち、それを赤子のように
「食らえ化け物!! 」
狼に変身している不死者に兵士の銃撃が命中する。しかし次の刹那には弾丸は筋肉によって体外に吐き出され、傷口があっという間に治っていく。
「まだ生き残りがいたか…… 今日はビュッフェにでも来ている気分だな」
「来るな…… 来るなぁッ!! 」
兵士が必死の表情で引き金を引く、しかし弾は放たれない。
「あぁ…… アアァァァァ!! やめろォォ!!! 」
狼男がその四肢を力ませ、四つ足で飛びかかった。兵士は目を
「『ラ・ヴーズ』」
数拍を置いて太い風切音が兵士の頬を撫でる。
「へ? ギャアァァ!!!…… 」
狼男の爪牙が自分の体を切り裂かない、違和感でなんとか正気に戻った兵士が恐る恐る目を開くと、そこには切り飛ばされた狼男の首と、地面に突き刺さった真っ赤な刃の槍が落ちていた。
「ヒッ 」
自分に降りかかった血飛沫を見て兵士が悲鳴を上げる。アランが静かにたしなめた。
「そうビビりなさんな。しかしたくさん殺したなぁこりゃ」
兵士の目に映ったその男はこの戦場に最もふさわしくない姿のをしていた。黒いズボンに革靴、白いシャツ、紺色のファッションジャケットと『不死者』が好んで襲いそうな出で立ちをしていたのだ。
「あんた! 今すぐここから…… 」
「まぁそう言わんと、な? 」
アランが上着を兵士に預ける。兵士は意味が分からずにポカンとしていた。
「キメラが3体、肉体強化5体、武器生成3体…… ま、ここは俺に任せろ」
アランが踵を返して歩き出した。兵士が慌てて止めようとするが、その手をクロウドとその近衛兵が制した。
「死にたくなかったら近付くな。彼は陸軍特務少佐、リー=ブラウン国家特等錬金術師だ」
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踵を返したアランは二、三歩前進し、『不死者』の群れを見渡して口角を上げた。
「結構な量殺したなぁ、こりゃあ俺に殺されても文句言えねぇぞ? 」
アランの不敵な笑みを受け、『不死者』たちは即座に戦闘態勢を取って後ずさりした。
「人間風情で俺らと戦うだと? どんなジョークのつもりだ? 」
『
「なっ!? 」
「たったか
小枝を振るかのような速さで槍を振るアラン。先頭に立っていた『不死者』が吹き飛び、豪快な血柱を上げた。
「こいつ、『肉体強化術式』を…… 」
肉体強化術式、それは身体能力を術力によって補完する錬金術の一種である。『不死者』の錬成に使われたもので、今となっては『
「お前も『不死者』か? 」
左手を両刃剣と化した『武器錬成型』の『不死者』がアランに問いかけながら構える。その腕は牽制のために水平に伸びている。アランは槍を右肩に担ぎ上げて構えた敵の刃の直前まで歩き、『不死者』の顔の前に指を三本突き立てた。
「『
アランは緊張感の欠片も見せずに語りかけた。しびれを切らした『不死者』が左手を振り上げるが、アランは敵の斬撃を槍だけで易々と防御した。
「だが、お前ら『不死者』の共通的な対処法は簡単『心臓を潰す』か『頭を胴体から切り離す』だけ」
そういうとアランは余った左手を手刀に構え、『不死者』の胸に突き立てる。ボキボキと
「カッ!…… ヒュー、ヒューー……!! 」
「ま、これも俺のお仕事なんでな…… 悪く思うなよッ!! 」
声にならない『肺から空気の漏れる音』を立てながら『不死者』が必死に首を振る。しかしアランは表情を変えることなく相手の心臓を引き抜き、握り潰した。