8話 外堀を埋めるは戦術の基本
文字数 2,034文字
ルクルッドの町の造りとして中心部に繁華街が集中し、その周辺を住宅とオフィスがひしめく雑多な空間が出来上がっている。
「……で、中央を外れたら即座に街の闇が見えるというアーネスト大佐の話は本当らしい」
基地を出て数分、アランはスラム街の入り口に来ていた。ただストリートチルドレンがあちこちをたむろし、犯罪者一歩手前の輩がうろうろしている訳でもない。
「……なるほど、これは怪しい」
しかし、路地に入っていくところのビルの窓が割れており、そこに停めてある車は車体が変形していた。明らかに人がいないにも関わらず、である。
「で〜ぇ、通りの入り口から三件目…… お、あったあった」
路地裏に足を踏み込んで少しすると、アランは『月豚停』と書かれた今にも落ちそうな看板が吊るされている酒場を見つけた。
「おぉぉ、いかにも『穴場』だな」
ややガタつく押戸がいかにもそれらしさをかもし出していた。アランが扉を開けると店主らしき男が一瞬だけ顔を向けたが、またすぐにバーの奥の酒蔵へと入っていった。
「今やってるかい? 」
アランが声をかけると、店主はあっさりと蔵から顔を出した。
「一応はな」
「んじゃあ、この店で一番高いのを頼む」
「三つほどあるがどれがいい? 」
店主がメニューをバーカウンターの下から取り出そうとした瞬間、アランは「フッ…… 」と小さく息を吐き、静かに店長を睨み付けた。
「酒じゃねぇよ、『人の血』だせって言ってんの」
店主の目が点になり、遅れて顔から血の気が引いていく。遂にはワナワナと手が震え始め、メニューを取り出した所にもう一度手を突っ込んだ。
「貴様ッ! どこからそれを…… 」
回転式拳銃 、最も手軽な護身武器ではあるが、そんなものはアランにとってはおもちゃ以外の何物でもない。
「あんまりナメた真似してっとドタマ吹き飛ばすぞワレェ、えぇ? 」
店主が拳銃を構えるより速くアランの指輪が反応していた。錬成された赤黒い弾丸が拳銃を貫通した上で後ろのワインボトルを粉々に砕く。
「もう一度だけ聞こう。人の血はあるのか? 」
「はいィ! ありますゥ!! 」
声を裏返して店主が両手を挙げる。「取りに行け」とアランが言うと脱兎の如く駆け出し、即座に木箱を1つ持ってきた。アランはすぐに蓋を開けて中身の確認を始めた。
「……確かに人の血だなこりゃ。ま〜た物騒な品物扱ってんな」
「こ、これは常連さんから頼まれて…… 」
店主が言い訳を始めると、『常連』という単語にアランは鋭く反応した。
「何人だ? 」
「いつもは四人です。でも昨日は3人しかいませんでした」
「使用目的は知ってるか? 」
「さぁ、『錬金術に』としか聞いていません」
立て続けに質問を終えたアランは木箱の中から人血の入った瓶を一本だけ取り出し、そのまま店の外に向かって大声を上げた。
「だってよ、聞こえたかい刑事さん? 」
アランの叫び声に反応したかの様に店内に警官がなだれ込む。店主はみるみる顔色を変え、アランの前にひざまづき、指を組んで命乞いを始めた。
「どこから、どこから沸いたんで…… 」
「ん? あぁ、こいつだよ」
アランが上着の裏ポケットに手を入れた。そして何かを取り出しテーブルの上に置く。
「さて、こいつは返しておくぜ刑事さん」
「ありがとうございます少佐、また後程基地に伺いますのでよろしくお願いします」
警官の敬礼に手を振って返すアラン。そしてそのまま店のドアに手をかけ、店主の方を振り返った。
「ま、詳しい話はそちらの方々に語るんだな」
アランは店を後にした。
─────────────────────
「……で、人血を売買していた酒屋がそこを含めて五店舗。全員売買を認めたとか」
アランの説明を受けてアーネストが頷く。今のアランの立ち位置は『臨時基地長付』のため、任務が終わると必然的に基地長室に帰ってくることになるのだ。
「回収された血は合計で180リットル、男性の平均体重を65kgとすれば36人分に匹敵する量じゃないか。これはどの程度の量なんだ? 」
アーネストがデスクに腕を置いて身を乗り出す。アランは応接机に報告書の束を置いてアーネストの方に向き直った。
「『不死者 』は恐らくこの街に4体いると推測出来ます。これは血を買いに来る常連客が全ての店で4人だと証言されたからですな。そして『不死者』は食べ物を食べ、運動すればそれだけ『術力』を消費します。するとまぁ、4体で1ヶ月持つ程度かと」
アランの説明を聞いてアーネストが「うーむ」と唸りながら頬杖をついた。
「彼らが最後に血を買ったのは2日前、5店舗から均等に購入しているならばあと3日ほどで血が尽きる訳だ。何も起こらんと良いがな…… 」
「……で、中央を外れたら即座に街の闇が見えるというアーネスト大佐の話は本当らしい」
基地を出て数分、アランはスラム街の入り口に来ていた。ただストリートチルドレンがあちこちをたむろし、犯罪者一歩手前の輩がうろうろしている訳でもない。
「……なるほど、これは怪しい」
しかし、路地に入っていくところのビルの窓が割れており、そこに停めてある車は車体が変形していた。明らかに人がいないにも関わらず、である。
「で〜ぇ、通りの入り口から三件目…… お、あったあった」
路地裏に足を踏み込んで少しすると、アランは『月豚停』と書かれた今にも落ちそうな看板が吊るされている酒場を見つけた。
「おぉぉ、いかにも『穴場』だな」
ややガタつく押戸がいかにもそれらしさをかもし出していた。アランが扉を開けると店主らしき男が一瞬だけ顔を向けたが、またすぐにバーの奥の酒蔵へと入っていった。
「今やってるかい? 」
アランが声をかけると、店主はあっさりと蔵から顔を出した。
「一応はな」
「んじゃあ、この店で一番高いのを頼む」
「三つほどあるがどれがいい? 」
店主がメニューをバーカウンターの下から取り出そうとした瞬間、アランは「フッ…… 」と小さく息を吐き、静かに店長を睨み付けた。
「酒じゃねぇよ、『人の血』だせって言ってんの」
店主の目が点になり、遅れて顔から血の気が引いていく。遂にはワナワナと手が震え始め、メニューを取り出した所にもう一度手を突っ込んだ。
「貴様ッ! どこからそれを…… 」
「あんまりナメた真似してっとドタマ吹き飛ばすぞワレェ、えぇ? 」
店主が拳銃を構えるより速くアランの指輪が反応していた。錬成された赤黒い弾丸が拳銃を貫通した上で後ろのワインボトルを粉々に砕く。
「もう一度だけ聞こう。人の血はあるのか? 」
「はいィ! ありますゥ!! 」
声を裏返して店主が両手を挙げる。「取りに行け」とアランが言うと脱兎の如く駆け出し、即座に木箱を1つ持ってきた。アランはすぐに蓋を開けて中身の確認を始めた。
「……確かに人の血だなこりゃ。ま〜た物騒な品物扱ってんな」
「こ、これは常連さんから頼まれて…… 」
店主が言い訳を始めると、『常連』という単語にアランは鋭く反応した。
「何人だ? 」
「いつもは四人です。でも昨日は3人しかいませんでした」
「使用目的は知ってるか? 」
「さぁ、『錬金術に』としか聞いていません」
立て続けに質問を終えたアランは木箱の中から人血の入った瓶を一本だけ取り出し、そのまま店の外に向かって大声を上げた。
「だってよ、聞こえたかい刑事さん? 」
アランの叫び声に反応したかの様に店内に警官がなだれ込む。店主はみるみる顔色を変え、アランの前にひざまづき、指を組んで命乞いを始めた。
「どこから、どこから沸いたんで…… 」
「ん? あぁ、こいつだよ」
アランが上着の裏ポケットに手を入れた。そして何かを取り出しテーブルの上に置く。
「さて、こいつは返しておくぜ刑事さん」
「ありがとうございます少佐、また後程基地に伺いますのでよろしくお願いします」
警官の敬礼に手を振って返すアラン。そしてそのまま店のドアに手をかけ、店主の方を振り返った。
「ま、詳しい話はそちらの方々に語るんだな」
アランは店を後にした。
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「……で、人血を売買していた酒屋がそこを含めて五店舗。全員売買を認めたとか」
アランの説明を受けてアーネストが頷く。今のアランの立ち位置は『臨時基地長付』のため、任務が終わると必然的に基地長室に帰ってくることになるのだ。
「回収された血は合計で180リットル、男性の平均体重を65kgとすれば36人分に匹敵する量じゃないか。これはどの程度の量なんだ? 」
アーネストがデスクに腕を置いて身を乗り出す。アランは応接机に報告書の束を置いてアーネストの方に向き直った。
「『
アランの説明を聞いてアーネストが「うーむ」と唸りながら頬杖をついた。
「彼らが最後に血を買ったのは2日前、5店舗から均等に購入しているならばあと3日ほどで血が尽きる訳だ。何も起こらんと良いがな…… 」