第22話帰り道

文字数 1,099文字

「やっぱり、知り合いだったのね」

「はい、高校の同級生でアイノさんです」

「私はギンコ。ここの店長よ」

「アイノです」

 挨拶を済ませ、その流れで会話をしていたが、ギンコが聞く。

「ところでアイノさん。高校生がこんな時間までお家に帰らなくて、家族は心配してない?」

 ハンカチを探すためとは言え、夜になっても女の子が1人で外にいる事が心配になるのは当然と言えた。

「大丈夫だと思います。両親に遅くなるかもと連絡してあるので」

「それでも、すっかり暗くなってるし、今からでも迎えに来ては貰えないの?」

「家はそんなに遠くないので平気です」

 しかし、大人としては不安が拭えないのも確かだった。

「じゃぁ、遼太郎君が送っていくのはどう?」

 良い事を思いついたというように、ギンコは両手をパチンと合わせる。

「い、いえ。そんな。悪いです!」

 アイノは首を振るが、遼太郎もすぐに返事ができないでいた。

 それは、彼女を送っていく事がいやなのでは無く、申し訳なさや気まずさが勝っていた。

 だがギンコは、そんな事は気にしていないのか、遼太郎たちを急かす。

「ほら、早く早く」

 ギンコに急かされる形で店を追い出される。

「それじゃ、お疲れ様でした」

「お騒がせしました」

 遼太郎とアイノは再び銀の稲穂を出て行く。

「気を付けて帰るのよ?」

 ギンコの言葉を背中に2人は歩く。

 何を話していいのかわからないながらも、途切れ途切れの会話が続いた。

 遼太郎の気まずさの原因。それは、1週間に1度の学校からの封筒を届けてくれているのが彼女だからである。

 文句や嫌味を言われても言い返す言葉は無い。彼女にその気がなくとも彼の罪悪感は消えない。

「アイノさんの家って」

「うん、変わってないよ」

 2人は小学校、中学校と同じ学校に通っていた。小中学校が同じという事は学区が同じであり、お互いの家が近い事を示している。

(昔、ちょっと遊んでた時期はあったな)

 小学校の時の遼太郎の思い出。家も近く、集団登校の時も同じ班だったので話す機会も多く、放課後や休日に遊ぶこともあった。しかし、中学校に進学してからは自然と遊んだり話す事も無くなった。

 そのまま高校に進学したものの、完全に接点を失っていたのだが、遼太郎が学校に行かなくなった事で家が近いアイノが届け役になったのだった。

 2人は電車に乗り、1駅で降りる。そのまま夜道を歩き、アイノの家に到着する。

 白い外壁の一軒家。1階のリビングと思しき場所では、カーテン越しに灯りが漏れている。
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