第31話プレゼント
文字数 2,474文字
洗い物や片付けを終え、再び勉強に戻る。
「この感嘆文の場合、how+形容詞+S+Vだから、どれほどって訳せるの」
「なるほど。どれほど好きだったか。で良いんだ」
アイノに英語を教えてもらいながら、気になっていたことを聞く。
「あのさ、何で此処まで世話を焼いてくれるの?」
ずっと気になっていた事だった。わざわざ学校の配布物を届けに来てくれたり、試験の対策ノートを貸してくれたりと、
その言葉にアイノは、視線を泳がせた。そして少し考え、言葉を選びながら話し始めた。
「小学生の時によく遊んだでしょ? そのきっかけ、覚えてる?」
そう問われ、遼太郎は首を傾げた。
覚えてはいないが、子供の時のきっかけなど小さなものだろうとおもっていたがどうやら違うらしかった。
「3年生の時にクラスメイトの男の子にからかわれたの。目がデカくて気味が悪い。って」
3年生の時、アイノと遼太郎は同じクラスだった。そして、その時の事も覚えているが結びつかない。
「2日目、昨日と同じ様にからかわれて。無視してれば飽きてすぐ終わると思ったのに、その日はしつこくて放課後まで続いたの」
そこを区切りとして、アイノはお茶の入ったグラスを傾けて一呼吸を置く。
「学校の帰り道では4人の男の子に言われて、嫌になって近くの公園に逃げ込んで隠れたの」
「彼らからすれば、逃げたから追ってきて、私を探してた。そこに、鳴海君が現れて私の手を引いて公園から一緒に逃げてくれたの」
黙って聞いていた遼太郎も、確かにそれを思い出していた。
ある日突然アイノをからかい出した、クラスでもお調子者だった男。
下校時のそれは偶然だった。最近の光景が遼太郎の目の前で起こった。
アイノに対し、一方的に紡がれる低質な悪意。
どうやってそれを止めようか考えていると、突然アイノが走り出し、4人もそれに続いた。
そして、彼らより先にアイノを探し出してその場を離れた。
後日、クラスの女子が裁判を開き、被告人の男子4人は断罪され決着がついた。
「あぁ、確かにアイノさんを見つけて公園から――」
そこまで言って、また思い出す。
「白いワンピースで、髪で顔が隠れてて」
風が吹いて髪は解かれ、見えたその瞳は、薄っすらと涙で光る綺麗な深い紫色だった。
この前夢で見た光景が呼び起こされた。
「鳴海君にとっては何でもない事だったのかもしれないけど、私は凄い救われた。だから、その時のお礼と言うか、恩返しみたいなものなの」
アイノは、そこまで話して恥ずかしくなったのか、ノートに顔を落とした。
遼太郎も何と言って良いのかわからず、とりあえず問題を解く事にする。
結局夕方まで勉強会は続き、16時になった。
「流石に良い時間だね」
アイノが伸びをしながら、ため息を吐く。
「そうだね」
同じように深く息を吐きながら肩を回す遼太郎。
お互いに、勉強という無言でいられるものが無くなった以上、話しをしようと頑張るが如何せん先ほどの話があるので気恥ずかしい。
その沈黙を破ったのは遼太郎だった。
「今日はありがとう。アイノさんのおかげで勉強も捗ったし、試験の対策も完璧だよ」
「そっか。なら良かった」
「っていうか、今日だけじゃなくて、いつも学校のプリントとか届けてくれてありがとう。本当はもっと早くに言うべきだったんだけど」
ずっと言いたかった事だった。いつも自分がアルバイトから帰って来ると郵便ポストに入っている封筒。それを見るたびに罪悪感があった。
それに対し、アイノは首を振った。
「さっきも言ったけど、私はあの時のお礼がしたかったの。だから気にしないで」
朗らかに笑うアイノ。
「それじゃあ、そろそろお邪魔するね」
彼女は荷物をまとめて立ち上がった。
「送っていくよ」
遼太郎も立ち上がる。
「まだ明るいから大丈夫。ありがとう」
それでもマンションの外までは見送りに出て行く。
「試験、頑張ろうね」
アイノがじゃあね、と手を振って帰ろうとした時、遼太郎は手に持っていた小さい紙袋を渡す。
「アイノさんはお礼って言ってたけど、俺もアイノさんに感謝してるので、コレを」
アイノは差し出された紙袋を受け取り驚いた声を上げる。
「え!? 良いの?」
「うん、感謝の印。でも、俺のセンスだから悪かったらゴメン。……あ、でもお店自体は可愛い所だから」
以前、ミラとのデートで訪れた雑貨店。遼太郎の知識の中で一番オシャレな店のデータはそこしかなかった。
取り扱っている物は可愛いと思うので、アイノの感覚に合うものであることを祈るしかない。
「うふふ、そんなことないよ。ありがとう」
自信なさげにしている遼太郎を可愛らしく思いながら、感謝を述べる。
そして自宅に戻ったアイノは、さっそく紙袋の中身を開けてみた。中には綺麗にラッピングを施された四角いものが入っていたので、丁寧にラッピングを解く。
「あ、可愛い」
それは、紫のパステルカラーのパスケース。自分の瞳の色と同じ紫を選んだのは偶然なのか違うのかはわからないが、嬉しい事には変わりがない。
端にはハートの柄が描かれており、ワンポイントの可愛さを放っている。
今使っているパスケースから定期券などを取り出し、移し替えて行く。
自然と笑みがこぼれ、それは夕飯の時にも消えることは無く続いた。
「良い事でもあったの?」
母に問われたが曖昧に返事をして誤魔化した。
夕飯も終わり、遼太郎にお礼のメールを打つ。すると直ぐに返信があり、気に入ってもらえたのなら良かった。という文章と顔文字が喜んでいた。
その日もいつも通り勉強をしようとしたのだが、どうしてもパスケースに目が行く。気付くと視線がノートから離れているので、勉強にならないと思い諦めてベッドに潜り込んだ。
「この感嘆文の場合、how+形容詞+S+Vだから、どれほどって訳せるの」
「なるほど。どれほど好きだったか。で良いんだ」
アイノに英語を教えてもらいながら、気になっていたことを聞く。
「あのさ、何で此処まで世話を焼いてくれるの?」
ずっと気になっていた事だった。わざわざ学校の配布物を届けに来てくれたり、試験の対策ノートを貸してくれたりと、
その言葉にアイノは、視線を泳がせた。そして少し考え、言葉を選びながら話し始めた。
「小学生の時によく遊んだでしょ? そのきっかけ、覚えてる?」
そう問われ、遼太郎は首を傾げた。
覚えてはいないが、子供の時のきっかけなど小さなものだろうとおもっていたがどうやら違うらしかった。
「3年生の時にクラスメイトの男の子にからかわれたの。目がデカくて気味が悪い。って」
3年生の時、アイノと遼太郎は同じクラスだった。そして、その時の事も覚えているが結びつかない。
「2日目、昨日と同じ様にからかわれて。無視してれば飽きてすぐ終わると思ったのに、その日はしつこくて放課後まで続いたの」
そこを区切りとして、アイノはお茶の入ったグラスを傾けて一呼吸を置く。
「学校の帰り道では4人の男の子に言われて、嫌になって近くの公園に逃げ込んで隠れたの」
「彼らからすれば、逃げたから追ってきて、私を探してた。そこに、鳴海君が現れて私の手を引いて公園から一緒に逃げてくれたの」
黙って聞いていた遼太郎も、確かにそれを思い出していた。
ある日突然アイノをからかい出した、クラスでもお調子者だった男。
下校時のそれは偶然だった。最近の光景が遼太郎の目の前で起こった。
アイノに対し、一方的に紡がれる低質な悪意。
どうやってそれを止めようか考えていると、突然アイノが走り出し、4人もそれに続いた。
そして、彼らより先にアイノを探し出してその場を離れた。
後日、クラスの女子が裁判を開き、被告人の男子4人は断罪され決着がついた。
「あぁ、確かにアイノさんを見つけて公園から――」
そこまで言って、また思い出す。
「白いワンピースで、髪で顔が隠れてて」
風が吹いて髪は解かれ、見えたその瞳は、薄っすらと涙で光る綺麗な深い紫色だった。
この前夢で見た光景が呼び起こされた。
「鳴海君にとっては何でもない事だったのかもしれないけど、私は凄い救われた。だから、その時のお礼と言うか、恩返しみたいなものなの」
アイノは、そこまで話して恥ずかしくなったのか、ノートに顔を落とした。
遼太郎も何と言って良いのかわからず、とりあえず問題を解く事にする。
結局夕方まで勉強会は続き、16時になった。
「流石に良い時間だね」
アイノが伸びをしながら、ため息を吐く。
「そうだね」
同じように深く息を吐きながら肩を回す遼太郎。
お互いに、勉強という無言でいられるものが無くなった以上、話しをしようと頑張るが如何せん先ほどの話があるので気恥ずかしい。
その沈黙を破ったのは遼太郎だった。
「今日はありがとう。アイノさんのおかげで勉強も捗ったし、試験の対策も完璧だよ」
「そっか。なら良かった」
「っていうか、今日だけじゃなくて、いつも学校のプリントとか届けてくれてありがとう。本当はもっと早くに言うべきだったんだけど」
ずっと言いたかった事だった。いつも自分がアルバイトから帰って来ると郵便ポストに入っている封筒。それを見るたびに罪悪感があった。
それに対し、アイノは首を振った。
「さっきも言ったけど、私はあの時のお礼がしたかったの。だから気にしないで」
朗らかに笑うアイノ。
「それじゃあ、そろそろお邪魔するね」
彼女は荷物をまとめて立ち上がった。
「送っていくよ」
遼太郎も立ち上がる。
「まだ明るいから大丈夫。ありがとう」
それでもマンションの外までは見送りに出て行く。
「試験、頑張ろうね」
アイノがじゃあね、と手を振って帰ろうとした時、遼太郎は手に持っていた小さい紙袋を渡す。
「アイノさんはお礼って言ってたけど、俺もアイノさんに感謝してるので、コレを」
アイノは差し出された紙袋を受け取り驚いた声を上げる。
「え!? 良いの?」
「うん、感謝の印。でも、俺のセンスだから悪かったらゴメン。……あ、でもお店自体は可愛い所だから」
以前、ミラとのデートで訪れた雑貨店。遼太郎の知識の中で一番オシャレな店のデータはそこしかなかった。
取り扱っている物は可愛いと思うので、アイノの感覚に合うものであることを祈るしかない。
「うふふ、そんなことないよ。ありがとう」
自信なさげにしている遼太郎を可愛らしく思いながら、感謝を述べる。
そして自宅に戻ったアイノは、さっそく紙袋の中身を開けてみた。中には綺麗にラッピングを施された四角いものが入っていたので、丁寧にラッピングを解く。
「あ、可愛い」
それは、紫のパステルカラーのパスケース。自分の瞳の色と同じ紫を選んだのは偶然なのか違うのかはわからないが、嬉しい事には変わりがない。
端にはハートの柄が描かれており、ワンポイントの可愛さを放っている。
今使っているパスケースから定期券などを取り出し、移し替えて行く。
自然と笑みがこぼれ、それは夕飯の時にも消えることは無く続いた。
「良い事でもあったの?」
母に問われたが曖昧に返事をして誤魔化した。
夕飯も終わり、遼太郎にお礼のメールを打つ。すると直ぐに返信があり、気に入ってもらえたのなら良かった。という文章と顔文字が喜んでいた。
その日もいつも通り勉強をしようとしたのだが、どうしてもパスケースに目が行く。気付くと視線がノートから離れているので、勉強にならないと思い諦めてベッドに潜り込んだ。