人生の一日

文字数 576文字

 一箇月前に読みさしたまま、ほっていた近松秋江の本を手にとると、大きな殻をもった田螺がページの間にはさまって死んでいた。生臭い。こんなに臭いのに、どうして気づかなかったのだろう?
 そんなことが気になったので大きな殻の臭い田螺をページに残したまま、本をぴったり閉じてしまった。
 部屋をみまわしても、裸の女たちがネトゲーのディスプレイにむかって昂奮しているばかりなので、仕方ない、大学に再入学しよう。経済学部に入って、やっぱ文学部いきたかったわと後悔してみようという熱い思念にオルガスムスにたっした。
 部屋はさわがしいので交番までいってトイレを借り、かくれタバコした。便所を詰まらせてはいけないから、交番前にたって通りに視線をおくる仕事中のおまわりさんのお尻をさわるふりをして彼の尻ポケットに吸いがらを入れた。

 交番を離れ100メートルほど歩きすすんだころ、突然に現実感をともなって目の前に暗くせまった受験勉強におそれをなして、気づかれずに盗んだ拳銃で後頭部から白っぽい脳みそを飛び散らしオレは死んだ。
 発砲音にハッとなって駆けつけた件のおまわりさんが、オレの手の傍に落ちた拳銃を目にして無意識裡に己の拳銃をさぐるとホルスターは空である。
 上司に叱られニュースになり、ネットで飛び交う真偽入り混じった情報にとり憑つかれる将来をおもうと彼はおそろしくなり……
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