干しサウナ

文字数 802文字

 干し魚(ほしうお)をつくろうとおもっていたのだが、晩春の風を顔にうけると気がかわって、干しサウナにしようとおもいたった。サウナを開きにして塩をふりかけて干し、備長炭で焼いて食うのである。
 あるいは利用者の汗が必要十分な塩味をあらかじめみたしているということかもしれない。

 まず喫茶店に寄り、ブルーマウンテンを口につけたところで、中学時代の恋人が今や三十路になったのがドアをチャリンとあけて入ってきた。
 目が合い、互いに片腕をあげる。再会をよろこび合い、することといったら他にないので、日時を約し、15年ぶりのセックスをすることになった。
「そのときは干しサウナをもっていくよ」と別れぎわにぼくはいった。
「なにそれ? なんかおいしそうね」と彼女は首をかしげた。
 そして彼女は、保育園にむかえにいかないといけないから、と席を立った。彼女が洗濯物を干している姿が目にうかんだ。

 サウナは独立していなくて、煙をあげる銭湯にくっついていたから、ぼくは黒くてよく切れるナイフでサウナ部分を切り分けた。ナイフを直接ふれさせるわけではない。前に立って空を切ればよいのだ。
 そして腹の部分というべき入り口部分を開くと、なにごとかと体をこりかたまらせた裸の人たちが、汗みずくでこちらを凝視している。
「干しサウナをつくるんです。干しサウナの一部になりたくなければ出てください」ぼくはいったが、彼らはきいてくれない。

 干しサウナは大きいので、簡単にもちかえることはできない。
 銭湯の経営者や他の客とももめたが、みんなで分け合うことにして、ぼくはモトカノと楽しむぶんだけ新しいフェイスタオルにつつみショルダーバックにしまった。

 久しぶりの彼女とのセックスはよいものだった。
「干しサウナ、また食べたいな」とも彼女はいってくれた。
 また会う口実として彼女はそういったのか。それとも干しサウナをまた味わいたいから会いたいとおもったのか。
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