去年の夏、とつぜん(承前)

文字数 486文字

 だから、蜜だまりが誰か自分の知り合いである可能性というのは完全には否定できないところがあった。
 「だから」というのは唐突ないいかたになってしまったかもしれない。
 とにかく誰を狙っているのかわからない、無作為としかいいようのない遣り方で、誰だろうがイキナリとつぜん上空に引っぱり上げられ、あげくの果て、蜜になってもどってくるのだ。
 内省しても仕方のないことだが、つい一つの蜜だまりの傍らに足をとめ、改めてこの現象について不可思議の念にうたれた次第だ。
 でもそうしていても、繰り返しになるが、仕方のないことなのだ。だから、というわけではないが、
「あのラグジュアリアスなペントハウスの夫婦は、どんな事情があってでかけたの?」と、自分は隣に立つ、真夏真昼の女性人形にたずねた。
「バッタ人間に関係したことなのよ」と、女性人形も蜜だまりに目を落としたまま独白するような調子でいった、「バッタをみててね、夫婦はバッタ色の人間ができたらおもしろいとおもったのよ。そして創っちゃったんだけど、逃げ出しちゃったのよ。いなくなっちゃったのピョンッってジャンプできるわけでもないんだけれど……」
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