ケンタロウ⑧

文字数 930文字

コンビニで少量の花火とライターを買った。

「こんなに明るいときに花火するの、初めて」
カオリが笑う。

「オレも」

二人で笑う。

「じゃあ、どれやる?」

答えはわかっていた。

『線香花火』

二人同時に言って、また笑う。


火をつける。


明るい空気の中に溶けてしまいそうな、透明なオレンジの光がかすかに見える。

「ほとんど見えないね」
カオリが笑う。

見えないけど、確かにあるものが見たかった。


…この花火がカオリのよりも先に消えなかったら、好きだと言おう。



消えるな。


落ちるな。



そう、思っていた。


苦しくて。


打ち明けたくて。


消えるな。



オレンジ色の小さな光が、
2つ、同時に落ちた。



「あー、落ちちゃったー…すごいね、私たち、花火のタイミングまでいっしょ。次、どれやる?」
カオリが笑う。


「…あとは、やるよ。カオリに」

「え?」

「シンジ帰ってきたらやれよ、いっしょに」

「…じゃあ、そのときは、ケンちゃんもいっしょにやろう?」


遠ざけようとすると、いつもこうだ。


どうして、オレをつかまえにくる。


どうして、オレは。


どうしたって、離れられない。



「…明日も明後日も、またカオリと会いたい」


好きだ、とは言えなかった。


伝わってくれ、と願った。


カオリは少し考えて言った。
「…うん、私も。明日も明後日もまたケンちゃんと会いたいよ」

笑うでもなく、泣くでもなく、けれどしっかりオレを見て。

伝わって、と願っているように。


カオリは鈍感だ、と思っていた。
でも、この時わかった。

だって俺たちは、似た者同士だから。

二択じゃなくたって、いつも、同じ方を選ぶ。

それは、期待させるような優しい嘘でもなければ、遠ざけるための言葉でもない。

オレの言ったことの意味が、カオリにわからないわけはない。


オレの精一杯の告白が、伝わらないわけがない。



失いたくはない存在。
それを失わないための選択。


ウソではない、この言葉でもう十分だった。


オレは彼女の親友という、特別になったのだから。


言えない、
言わない。
好きだとは。


カオリを失いたくはないから。

「…また、明日」

「明日、ね」
カオリが少しだけ微笑む。


見えないけれど、オレたちの間には確かにあるもの。


それを壊さないように、明日も会おう。


どうか、明日も笑っていて。


オレの、一番好きな笑顔で。



オレの、一番好きな


親友へ。
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