ケンタロウ②

文字数 1,301文字

それからはカオリと話すことが増えた。

カオリは、みんなでいるときはシンジのことばかり見ていたけれど、本の話をしたい時は別で、オレのところに来て話をした。

「この前買った本、どこまで読んだ?」

そこから始まって、
主人公をどう思うとか、あのラストはどう思った?とか、毎回、単純なことだった。
けれど、それだけのことが楽しかった。


同じ小説を読み終わり、家にある本を貸して、カオリの好きだと言った作家の本を全部貸し終わると、オレは自分のオススメの本を貸すようになった。
カオリも自分の好きな作家の本を貸してくれた。


オレたちはお互いの好きな作家をやっぱり気に入ったし、何を読んでもオレたちの感想はほぼいっしょ。
感動したとこ、笑ったとこ、泣いたとこ、好きなセリフ。
こんな細かいとこまで一緒なのか、と笑ったことも多かった。


そのうち、カオリはオレをケンちゃんと呼ぶようになった。

シンジと間違えて呼んだのがきっかけだ。

「あ、ごめんケンタロウくん」

「いーよ、ケンちゃんでもケンでも。オレも勝手にカオリって呼び捨てしてたし」

「じゃあケンちゃん」


急に馴れ馴れしくしないところに好感が持てた。

オレも普段なら女子を勝手に呼び捨てなんてしない。
ただ、シンジがいつもカオリと呼んでいたから、『カオリちゃん』と呼ぶのは逆に不自然な気がして、自然とそうなった。
カオリの名字を知ったのは、知り合ってからもっとずっと後のことだったから。

中2の時、オレとカオリはそれぞれのクラスで各クラス1名の図書委員になった。

中学での図書委員の仕事なんてほぼ無いに等しかったし、どちらにしても図書室に行くのだから別にいいやと思って引き受けただけだったが、思いがけず、カオリと一緒になったことが嬉しかった。

前にも増して、カオリといる時間が増えた。

学校の図書室は人の来ることの方が少なくて、二人で本の話をするにはちょうど良かった。

シンジの部活が終わる頃まで二人で話すことが多かった。

図書室の窓からは、グラウンドが見える。
シンジのいるサッカー部の練習もよく見えた。

カオリはもしかして、このために図書委員になったのか。


二人だけの時、カオリが言った。

「ねえ、ケンちゃんさ、シュークリームとエクレア、どっちが好き?」

「何で?」

「いいから答えて」

「…シュークリームかな」

「やっぱり!」

「何で?」

「私も好きだから」

ドキッとした。

「シュークリームの方が」

あ、シュークリームの話か。

好きという言葉に動揺して、たぶん耳まで赤くなった。

「そっか」

気づかれないように。
顔を見られないように。
窓の方を向いて言った。


「ケンちゃんと私ってさ、いつも本の感想が似てるじゃない?好みも。だから、他に好きな物とかも似てるんじゃないかなって思って!二択ならけっこーいけそうだから、どこまでいっしょかやってみよーよ!」

「え、何そのマニアックな遊び」

「面白そう、って思うでしょ?だって、私がそう思うんだもん」

カオリが笑った。

「いいよ、毎日ちょっとずつなら」

ものすごく、嬉しかった。


『私がそう思う』
イコール
『ケンちゃんもそう思うでしょ?』
だ。



だけど。

だから。

オレは、カオリの特別になって、

しまったのかもしれない。

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