ケンタロウ⑦

文字数 1,153文字

祭の日から、やっぱりカオリは元気がない。

シンジも祭で何かあったのか?
祭の前よりさらにボーッとしてて、話しかけても上の空。

キノシタは相変わらず。
たぶんシンジの気持ちには気づいていないんだろう。
カオリにもふつーに話しかけてる。

頼むからもう、カオリを傷つけないでくれと思っていた。


掃除中、キノシタが言った。
「あーもうすぐ花火大会だよねぇ。今週末だっけ?カオリは?行くの?」

「…どうかな」

「マキセと行かないの?」

「えっ、なんで?」

「お祭りはいつもいっしょに行ってたんでしょ?ウスイに聞いた」

「あ、うん…毎年いっしょに見てるけど」

「そっか~!カオリも先約ありか~!」

ほんと、キノシタは一人で完結させる奴だ。

カオリは何も答えなかった。

カオリはきっと思ってる。

今年の花火は、シンジとは見られない、と。



花火大会当日、シンジは学校を休んだ。

キノシタのことしか見えてなかったらしく、オレにもカオリにも何も言っていなかったが、カオリが電話すると、じいちゃんの法事で、こっちにはいないらしい。


カオリと二人、歩いて帰った。
自販機でジュースを買って、家の近所の公園のベンチに座りながら飲んだ。

「今日、花火大会だね」

「…だな」

「シンちゃん、忘れてたみたい。来週だろ、だって。」

「マジで?」
毎日ボーッとしてたもんな。

「シンちゃんいないの、初めてかも」

「…そっか」

「…でも良かったかも、いなくて」

こっちにいないんなら、キノシタを誘うこともないからか。

「…そっか」

「…ケンちゃん、ずっと気づいてたんでしょ?」


気づいてたよ。



知ってるよ。



ずっと。



だから、もう、言わなくていい。



言わないでくれ。



その先は。





「私が、シンちゃんを好きなこと」




言わないで、ほしかった。


わかっていても、言葉にされると、心の中が渦巻く。


カオリは、

オレの好きな人は、別の奴が好きなんだ。

オレじゃない。



胸が張り裂けそうで、何も答えられない。



「ケンちゃんにはわかるのに…シンちゃんて、鈍感だよね」


カオリこそだ。


「でも、ケンちゃんがいてくれて良かった。」


カオリの方を見た。


「…オレが、行こうか」

「え?」

「花火大会、シンジの代わりに」

代わりでも、良かった。
カオリのそばにいられるのなら。

「……ありがとう。でも、いいの。ケンちゃんはケンちゃんだもん。…シンちゃんの代わりにしちゃ悪いよ」

シンジの代わりにはなれない、と聞こえた。

「…ケンちゃんは、大切な親友だから。誰かの代わりじゃない。…誰にも、代わりはできない。」

親友。

でも、カオリのこういうところが好きだ。

好きだ。
と今、ハッキリ思う。


知ってしまったから。

知らないフリは、もうできない。

「花火、しない?ちょっとだけ」

「えっ、花火?今?まだ明るいよ?」
カオリが空を見上げる。

「しない?」

「…しようか」
カオリが笑う。

この笑顔が、

好きだ。

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