ケンタロウ①

文字数 1,182文字

今日も右斜め前に座るあのコを見ている。

高校2年になってやっと同じクラスになれた。
目が合うことのない授業中は、こうしてずっと見ていられる。

みんなでいるときも、目が合うことはほとんどない。

あのコはいつもアイツを見ているから。




こっちに転校してきたのは中学の頃だ。

初めてできた友達がシンジだった。


シンジはオレとは違って底抜けに明るい奴だった。

性格も趣味も全然違う。

けれど不思議とウマが合う。

シンジは裏表のない、いい奴だ。

だから、オレがシンジと仲間でいたいと思うのは当然かもしれない。

けど、どうしてシンジはオレといるんだろう。

最初はそんな風に思っていた。


けれど、答えはすぐにわかった。


シンジの後をいつもついてくるカオリの存在を知ったからだ。
カオリはシンジの家の隣に住む幼なじみだ。


カオリとオレは何となく似ている。

最初からそう思っていた。


明るいものに憧れながらも、自分はそうはなれない。
なれないとわかっているから、なりたいとも思わない。
けれど、明るいものの側で、それを見ているだけで明るい気持ちでいられる。
その感覚が好きなのだ。


カオリがシンジのことが好きなのはすぐにわかった。

シンジは気づいているのかいないのか。

そう思って一度聞いてみたことがある。


「なあ、シンジって、好きな奴いんの?」

「いねえな、興味もナシ!…あ、好きって、女子?男子ならオマエだけど!」

「そりゃどうも…カオリは?付き合う気、あんの?」

「カオリ?カオリは幼なじみ!」

「それって、アリってこと?ナシってこと?」

「幼なじみは幼なじみだな」

「そっか」

幼なじみ。
特別ってことか。

いつもシンジの方を見てるカオリに同情した。
幼なじみは幼なじみとして居場所ができてしまえば、特別ではあるけれど、それ以上の特別にはなれないらしい。



ある日、カオリと学校近くの本屋でばったり会った。
シンジのいないところで会うのは初めてだった。

「あ、ケンタロウくん」

「おー、一人?珍しいな」

カオリは笑った。

「私だって24時間シンちゃんと一緒ってわけじゃないよ」

「そりゃそーだ」

「何か買いにきたの?」

「小説」

「え、偶然、私も、コレ」
カオリが手に持っている1冊をオレに見せた。

「あ、オレもそれだわ」

「え、ほんとに!?私この人の書くの好きなんだ!」

「オレ、家に全部あるよ」

「ウソ!全部ってすごいね!私、知ったのもけっこう最近だから、全部は読んでないんだ、いいなー!」

「貸そうか?」

「えっ、いいの!?ありがとう、貸してほしい!」

オレたちは同じ本を持ってレジへ向かい、帰り道を一緒に歩きながら、お互いに好きな本の話をした。

カオリとこんなに話したのは初めてだった。
クラスも別だし、シンジがいなければ知り合うこともなかっただろう。

今の小説を読み終わったら家にある本を貸す約束をして別れた。

カオリが、笑って手をふる。

カオリの存在が、オレの中で少しだけ膨らんだ。

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