ケンタロウ⑥

文字数 1,686文字

キノシタがカオリを夏祭りに誘ったのは、学祭から1週間後のことだった。

「シンちゃんも、行く?」

「あーーー、行ってもいいよ。」

シンジは嬉しさを必死に押さえている。
それがまるわかりだ。
シンジのこーゆーとこが、オレは好きだ。
けど、今は無性にムカつく。

「オレも行こーかな」

「え?ケン、珍しーな!いっつも誘っても行かねーじゃん?」

「何となく」

カオリとシンジとキノシタの3人なんて、行かせられるか。

シンジとキノシタの接触を減らすため、オレは行くことにした。

ついでにリョウスケとソウタもついてくることになってほっとした。
多いにこしたことはない。



祭りに行く途中から、オレはキノシタをマークした。

「祭行くの、久々」

「ウスイってさ、マキセと同じ中学なんでしょ?いっしょにお祭行かなかったの?」

「オレ、人混みキライだから、そーゆーのはパス。シンジはカオリと行ってたけど」

「え?……何、そーゆーこと!?ヤバ!あたし鈍感!!」

キノシタは一人でまくし立てると、シンジのところに走って行ってしまった。

シンジがデカい声で「幼なじみ」と言ったのが、最後尾のオレのところまで聞こえた。


カオリはどんな顔してるだろう。


会場に着くとしばらくはシンジとキノシタの接触はなかった。

キノシタが手当たり次第甘い物を食っていたからだ。

これはさすがにシンジも引くんじゃないか。

一体どこがいいんだか、オレにはナゾだ。

あれだけ食って、キノシタはまだ人の分まで欲しがってる。
マジか。


キノシタはリョウスケの食ってる焼き鳥を見て、「一口ちょーだい!」と言って断られた。

シンジは…リョウスケが断ったのを見てほっとしてる?…みたいだ。

でもキノシタはすぐにソウタが買った焼きそばを見て、欲しがった。

「食う?」
ソウタがキノシタに箸を差し出した。

オレはシンジを見た。

瞬間、シンジは、その箸を、キノシタが受け取ろうとしている間に割り込んで、ソウタから奪った。

そして、みんなが呆気にとられて見ている中、口につめこめるだけつめこみ、ソウタの焼きそばを全部食った。

リョウスケは笑い、ソウタも呆れて、キノシタは怒っている。

カオリは…口を横にぎゅっと結んだままじっとシンジを見ていた。

泣いてしまう。
そう感じた。

シンジが食ってしまった焼きそばの代わりを買いに行き、戻ってきても、カオリは黙ったままだ。

シンジをどうにかキノシタから遠ざけないと。

「あ。オレ、わたあめ買ってこよーかな」
咄嗟に思いつき、口に出した。
「ワタアメ~!あたしも…」
よし、のってきた!

「キノシタ!!!」
即座にシンジが遮った。

「何?」
キノシタがシンジの方を振り返る。

ヤバい。
裏目に出た。
シンジはキノシタにたこ焼きを買ってやると言って、連れ出した。

シンジに火をつけてしまった。

二人きりにしてしまった。

オレのせいで。

カオリはやっぱりそれをただ見ていた。
「カオリ…」
その後何も続けられないのに、思わず、声に出してしまった。

「ケンちゃん、わたあめ買いに行こっか」

泣き笑いみたいな笑顔を向けて、カオリが言った。

胸がしめつけられる。

わたあめなんて、好きじゃない。
カオリだってきっと。

だけど今、ここから離れたいんだ。
シンジとキノシタが戻ってくるのをただ待つのは辛すぎる。

リョウスケとソウタを残して、オレとカオリはわたあめを買いに行った。

「ごめん」

言わずには、いられなかった。

「ケンちゃんが、謝ることない」

カオリは、何が?とは言わなかった。

オレがカオリの気持ちに気づいていることに、もうカオリも気付いている。
そう思った。

「シンちゃんって…分かりやすいよね 」
「…キノシタは、鈍感すぎだな」
「サホは誰にでもああだから」
カオリが笑う。
泣いてしまいそうな顔で。

無理するな、笑わなくていい、そう言いたかった。
でもそうしたらカオリが泣いてしまいそうで。
そうしたら、オレはカオリを見ているだけでいられるだろうか。

シンジを責めることなんてできない。
オレもカオリも、自分の気持ちを隠しているのだから。

シンジはいい奴だ。


いい奴だ。


自分に言い聞かせても。


いい奴だから、
どうしようもなくて。

どうしようもなく、
ムカつくオレがいた。




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