ケンタロウ⑤
文字数 1,484文字
高校では、またシンジと同じクラスになった。
カオリとは別だ。
シンジは高校に入っても相変わらず男子の中で馬鹿騒ぎしていた。
けれど学祭が終わった頃からか、シンジの中で何かが変わっている気がした。
何が変わっているのか、うまくは言えない。だけど上の空だ。何をしてても。話をしている時も、どこか別の方へ気がそれているような気がしていた。
「なぁ、お前、なんか最近変じゃね?なんかあった?」
「別に?なんも」
シンジが目をそらす。
やっぱ、変だ。
「ケンタロー…お前、好きなやついる?」
「え?」
そんなことをシンジが言い出したのは初めてだった。
こんな話題自体、中学の頃、カオリを幼なじみと断言して以来だ。
まさか。
今になって?
こんな日が来ることを、カオリのために少しは願ったことはある。
けどそれは、シンジがカオリを幼なじみとしか思っていないという前提があったからできたことかもしれない。
シンジがカオリを好きにならないなんて、そんなことないとは言いきれなかったのに。
オレは本当に、願っていたんだろうか。
どうする。
何て答える。
「あのさぁ……キノシタってどう思う?」
予想もしてなかった名前が飛び込んできた。
「キ………キノシタ……?」
「そ、キノシタ」
「キノシタって…あのキノシタ?キノシタ サホ?」
「そー」
「どーって………別に…何とも……男っぽいなとは思う」
「…だよな!うん、男みてーだよな、アイツ!そーだよな!」
嫌な予感がした。
シンジの隣の席のキノシタは、カオリとは全然違う。
どちらかというとシンジと似ている。
…そうだ、シンジと似てるんだ。
きっと、シンジが出会ったことのないタイプ。
『オマエと似てるよ』
なんて言ったら、シンジはキノシタを特別に思ってしまう気がして、言うのをやめた。
シンジの気持ちを後押しするようなことは、できない。
クラスが離れていれば、シンジのクラスでの異変に、カオリが気づくことはないはずだ。
どうかこのまま。
シンジが自分の気持ちを何かの勘違いだと思っている間に、キノシタとシンジ、二人が離れてほしいと、クラス替えのときには心底願った。
この時は本当に願った。
カオリが傷つくのを見たくなかったからだ。
けれど最悪なことに、オレもシンジもキノシタも、そしてカオリも同じクラスになってしまった。
カオリが気がついてしまう。
それだけは避けたかった。
驚いたことにカオリとキノシタはすぐに仲良くなった。
やっぱりオレとカオリは似ている。
明るいものの方へ引き寄せられるところが。
中学の時からカオリと始めた二択遊びは、次第にネタ切れしてしばらくしていなかった。
それが、同じクラスになって少しした頃。放課後、みんなで残ってしゃべっていたときに、たまたまカオリと二人きりになった。
窓際の手すりの上に両腕をのせて、そこにもたれかかるようにしながら、カオリがつぶやいた。
「晴れと雨なら…晴れ」
「え?」
聞き違いかと思った。
「夏と冬なら、夏」
「…二択?…久々。」
でも、違う。
今までの二択とも違う。
こんなにわかりやすく正反対で対照的な物を、カオリは引き合いに出してきたことはない。
それでもオレが選ぶなら、
晴れと雨なら、雨。
夏と冬なら、冬だ。
きっと、カオリも。
これは、自分の好きな方の話ではない。
シンジに近い方を選ぶなら。
キノシタに、近い方を選ぶなら。
シンジが…選ぶなら。
答えは、晴れ、夏。
「朝日と夕日なら?」
カオリが振り返る。
その瞳は、すがるような、瞳。
カオリの不安が伝わってくる。
カオリは気づいてる。
シンジの、キノシタへの気持ちに。
「…夕日だよ」
「…おんなじ」
カオリが微笑んだ。
カオリを、
選ぶよ。
オレが
シンジなら。
★
カオリとは別だ。
シンジは高校に入っても相変わらず男子の中で馬鹿騒ぎしていた。
けれど学祭が終わった頃からか、シンジの中で何かが変わっている気がした。
何が変わっているのか、うまくは言えない。だけど上の空だ。何をしてても。話をしている時も、どこか別の方へ気がそれているような気がしていた。
「なぁ、お前、なんか最近変じゃね?なんかあった?」
「別に?なんも」
シンジが目をそらす。
やっぱ、変だ。
「ケンタロー…お前、好きなやついる?」
「え?」
そんなことをシンジが言い出したのは初めてだった。
こんな話題自体、中学の頃、カオリを幼なじみと断言して以来だ。
まさか。
今になって?
こんな日が来ることを、カオリのために少しは願ったことはある。
けどそれは、シンジがカオリを幼なじみとしか思っていないという前提があったからできたことかもしれない。
シンジがカオリを好きにならないなんて、そんなことないとは言いきれなかったのに。
オレは本当に、願っていたんだろうか。
どうする。
何て答える。
「あのさぁ……キノシタってどう思う?」
予想もしてなかった名前が飛び込んできた。
「キ………キノシタ……?」
「そ、キノシタ」
「キノシタって…あのキノシタ?キノシタ サホ?」
「そー」
「どーって………別に…何とも……男っぽいなとは思う」
「…だよな!うん、男みてーだよな、アイツ!そーだよな!」
嫌な予感がした。
シンジの隣の席のキノシタは、カオリとは全然違う。
どちらかというとシンジと似ている。
…そうだ、シンジと似てるんだ。
きっと、シンジが出会ったことのないタイプ。
『オマエと似てるよ』
なんて言ったら、シンジはキノシタを特別に思ってしまう気がして、言うのをやめた。
シンジの気持ちを後押しするようなことは、できない。
クラスが離れていれば、シンジのクラスでの異変に、カオリが気づくことはないはずだ。
どうかこのまま。
シンジが自分の気持ちを何かの勘違いだと思っている間に、キノシタとシンジ、二人が離れてほしいと、クラス替えのときには心底願った。
この時は本当に願った。
カオリが傷つくのを見たくなかったからだ。
けれど最悪なことに、オレもシンジもキノシタも、そしてカオリも同じクラスになってしまった。
カオリが気がついてしまう。
それだけは避けたかった。
驚いたことにカオリとキノシタはすぐに仲良くなった。
やっぱりオレとカオリは似ている。
明るいものの方へ引き寄せられるところが。
中学の時からカオリと始めた二択遊びは、次第にネタ切れしてしばらくしていなかった。
それが、同じクラスになって少しした頃。放課後、みんなで残ってしゃべっていたときに、たまたまカオリと二人きりになった。
窓際の手すりの上に両腕をのせて、そこにもたれかかるようにしながら、カオリがつぶやいた。
「晴れと雨なら…晴れ」
「え?」
聞き違いかと思った。
「夏と冬なら、夏」
「…二択?…久々。」
でも、違う。
今までの二択とも違う。
こんなにわかりやすく正反対で対照的な物を、カオリは引き合いに出してきたことはない。
それでもオレが選ぶなら、
晴れと雨なら、雨。
夏と冬なら、冬だ。
きっと、カオリも。
これは、自分の好きな方の話ではない。
シンジに近い方を選ぶなら。
キノシタに、近い方を選ぶなら。
シンジが…選ぶなら。
答えは、晴れ、夏。
「朝日と夕日なら?」
カオリが振り返る。
その瞳は、すがるような、瞳。
カオリの不安が伝わってくる。
カオリは気づいてる。
シンジの、キノシタへの気持ちに。
「…夕日だよ」
「…おんなじ」
カオリが微笑んだ。
カオリを、
選ぶよ。
オレが
シンジなら。
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