9:タイトル
文字数 1,943文字
病院での治療やら『本物の』警察との事情聴取を終え、自室に帰って来れたのは昼過ぎだった。
更に治療だけでなく『協会』の助力もあって大事にはならず、俺が意識を取り戻した時はほとんどの案件が片付いていた。ゴリアテに破壊された玄関や窓ガラスも、一晩で綺麗さっぱり元通りになっていた。……一体どういうカラクリなのか。
そして俺の部屋にいつも設置してある防犯カメラやボイスレコーダーのおかげで、連続強盗の犯人が与名である事が発覚した。後の事は警察に任せれば大丈夫だろう。
再びドアをガチャリと開ける。部屋の前で突っ立ったまま、何をしているのか。
……そういえば、喧嘩するみたいな形で出て行ってから、ちゃんと謝らずに帰ってきてしまったな。与名の案件ですっかり頭から吹っ飛んでいたが。
分厚い聖書を手に取って。ユカエルはまたこの部屋に帰ってきた。ずっしり重いこの本は世界を救う重圧に比べれば軽すぎるが、まぁ……誰かを『信じる』重さってのは、これくらいなのかもしれない。
新約聖書のその更に後。『ヨハネの黙示録』の次から、別の記述が始まっている。
――『人間不信者の真約魔法聖書』。
この本を完成させるのが俺の、俺達の最終目標らしい。
……まぁ、ゆっくりまったり俺は俺のペースでやるか。受験勉強もあるし。何とかなるだろう。アホでポンコツで、だからこそ信頼できる、守護天使のユカエルもいることだし。
夏休み7日目。
神は一週間で世界を創造して休んだが、矮小な俺にできるのは、真約聖書の一章を終えることくらいだ。こんなものさ。俺達人間ってのは。信じるには値しないけど、見捨てるほどではない、神や天使が愛してくれる土から生まれた子供達。
今日から八月。夏はまだ、始まったばかりだ。
――――――
『人間不信者の真約魔法聖書』第一章『少年と天使』より