無造作

文字数 759文字

“手にしたかったことは、それだけで“

答えなんて無いと知る限り
私はわたしだった。

「先輩の本は世界で愛される本になります。」
「どうして。」
「僕には書けません。」
「君の場所を取ってしまったのかな。」
「いいえ。自分で消したんです。」
「なぜ、君はいつも姿を消して妨げるの?」
「誰かのために書く訳でも無いから。」
「君は、すこしおかしいね。」


手にしたかったことはそれだけで。
「誰にでも出来る発想が憎いんですか?」
「違うよ。ただ凡庸だと思って余白を空けるのをイメージしているの。そして自己満足にならないようにしないとってね。」
「僕にはそれがありません。自覚症状で有ります。足りてません。」
先輩は溜息を吐いて
「傘。」
「はい?」
「傘ってどう?」
「傘は深いですよね。」
「そうその視点。わたしはコンビニエンスストアに置かれたままの傘を書こうとしてるの。」
「良いですね、それ。」
「これから書いてもいいかな?」
「えぇ、どうぞ。」


「私が出来た事を、別の人がしている。焦がれた人の目には私は映らない。幽霊だ。そして私はもう二度と誰も愛せないと知る。責めて、傘にして欲しい。せめて、あなたの傘になりたい。誰にも見向きもされない様なそんな傘にして欲しい。コンビニに無造作に置かれる洒落けの無いモノになれば、諦められるのだ。わたしができたことが諦められるのだ。其れがどれほど幸せなのかを、あなたはたぶん知らないままだ。」

「幽霊ってなんですか?」
「幽霊はね、死ぬって意味もあると思うけど、この場合は忘れられた誰かってこと。」
「忘れられた?えと、誰にでしょう?」
「焦がれ過ぎた人が別の人を、愛してしまったらその役割は自分には回ってこないでしょう。」
「確かにそうですね。」
「だから、もっと深く書いてみたいんだ。」
「そうですね。」

手にしたかったことは、それだけで。
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