文字数 1,477文字

人は笑い方でわかる。
知らない人に初めて会って、
その笑顔が気持ちよかったら、
それはいい人間と思ってさしつかえない。

- ドストエフスキー -


其の夢の続きを探していた。まだ続くと思って、夢の中で手を伸ばしてた。重なるのは、欲しくないものばかりだった。望んだものって何だったのか、私は其の色になれたのだろうか。


木下夕霧と名付けて始めたwebの連載作品の登場人物。重ねてしまった。世の中から見捨てられた小説家。霧のように、正体が掴めなくて、霧のように曖昧で、最後は、靄となって当たり前の姿として、栄えていた現実が消えて行く。彼の小説のきっかけは、そんな大それたことだったのかな。案外、これを書いてる人間みたいに、気楽で、そして単純に、誰もが憧れるそんな綺麗なものを、望んでいただけじゃないのかなと自問自答をした。週間現代ランデブー。密告者がいた。彼を貶めた張本人の記者はこう言った。
「作者が望んだことです。」
私はその言葉の意味が理解出来なかった。
当たり前のように読んで来た。密告一つで、信じたものを、捨てれる勇気なんて、無かった。とりあえず登場人物を三人作ることに決めた。この世で誰もが知る小説家と密告者。
そのふたりと世間のざわめきを俯瞰して観る第三者。題名は
「そうだ小説家の自白だ。」
webに載せた最初の小説。これを、二度と読まれない彼の小説の自分だけが知る事実として書き上げる、そんなつもりでいた。


では教えてください。あなたの自白を。
ーーえぇ。
始まりは、原稿用紙とペンですよね。当たり前でしょう。同級生に文章を書くのが上手い人がいまして、そいつとよく見せ合いをしてたものです。一緒にコンクールに応募したり、彼は佳作に選ばれたり。入賞したり。とにかく競っていました。街で流れる人の間を歩いてると、突然と目の前が暗くなって、モノクロになってしまった。それが、僕の第一の歪みでした。何も書けなくなった。ある日の夜、彼の元へ向かいました。そしたら、彼は言う。この原稿を読んで欲しいと、読んでみました。そして思ったのです。彼の才能には追いつけないって事を。
「この作品が僕の物になれば、僕はこの乾きを、癒せるのか。」そんな風に次第に思うようになりました。その日のことを僕は“自伝的に白黒とした視界に、遮る様な忌憚“と書いています。
「えぇ、それなら当然の如く読みました。そういう意味だったんですか。」
そして、彼に言った。この作品が欲しい。
彼は最後に言った。
「お前に美しさが理解が出来るなら、そんなこと言わないだろ。」
僕はその甘さに酔いしれて、その日。
彼を、落とした。冷たい冬の上がれない井戸の中に、二度と自分からは這い上がれないそんな真っ暗闇に、彼を落とした。
「それが、最初の罪です。」
ーーそれは、本当の話ですか。作品の話ですか。失礼、あなたの作品に井戸が、出てくる作品があったような気がして、あぁそれこそ。処女作の淡色をした月の話です。
「ご想像にお任せします。」と足りない男は言った。
とりあえずその作品で応募した。
僕は大賞を取って、小説家としてデビューが出来た。“これが最初の告白です“

其の夢の続きを探していた。まだ続くと思って、夢の中で手を伸ばしてた。重なるのは、欲しくないものばかりだった。望んだものって何だったのだろう。私は其の色になれたのだろうか。

人の笑い方で解る。
人の素振りで解る。
人の言葉だけで解る。
「お前に美しさが理解が出来るなら。」
私の枯れた才能とは異なるものに初めて会って、その才能が気持ち良いと受け止めれば、
それは決して届かないと思ってさしつかえない。
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