NIR

文字数 7,824文字

 

さようならと手を振るのは簡単だった。
その都度別れるのが当たり前だからだ。また明日ねと別れ際で発する口癖のように、簡単に言えばいい。其れは私が微妙な色を持って生まれたからだ。産まれた時から、わたしなんて存在しなかったのだ。どこへ行っても、場所が変わっても、泣く必要がないように。心が無いの、と聞かれたら、飾りみたいな演技は必要ないよと、発せる勇気が私にはあった。友達が、家が、親が、何度変わっても。私は言えばいいだけだ。仮面を作っても、素顔のままでも、嘘を作っても。一番に誰かを喪いたくないと願う時に限って、失うことを知っていた。あの場所へ返して、そんな些細なお守りみたいな運命も、嘘で持て囃される。そうやって、何かと戻れない過去を手にするのが、得意になったのだ。だから簡単に言える。必要な人が、死んだ時にだって、私は、表情を崩さずに言えるのだ。
「さようなら。」


交通事故に、巻き込まれました。
北井梨花 38歳



母さん、梨の花ってどうやって咲くの。
「どうして。」
「トウバナよりも、尊いの。」
「トウバナは雑草だからね。」
「私は雑草で、母さんは梨の花なの。」
「私の名前のことだね。梨の花は、白い色をしてるよ。儚い花だって、よく言われるね、果実の花言葉。」
「果実の花言葉ってどういう意味。」
「基本的に花が咲かない限り、果実が出来ないから。」
「母さんは、それなの。」
「少なくとも、私は。」
母さんはあの時になんて言ったのだっけ。
覚えていない。儚さが現実になるのなら、皮肉みたいで悔しかったから。

「さようなら。」


家に帰りたく無い時が沢山あった。
家の人たちは、なんであんな場所まで一人で歩いたの。まさかあそこまでは行ってはないよねと聴いてくる。自然と足が傾く。理由を聞かれたなら、適当に理由を付ければいいだけだ。
「行く訳が、ないでしょ。」
得体の知れない場所だ。
私には独りなる理由が必要だった。片親になった。父さんは母と関係が悪くて、亡くなった時には既に他人みたいな人(モノ)だった。幼い私を家に預けようとはしなかった。親戚の叔母さんの家で過ごすことになった。圭一と呼ばれる男がいる。時々、嫌な視線を感じるから、逃げるように、その度に、視線を逸らす。いつかなにかされるのではないかとそんな恐怖が日々を襲う。私のランドセルは、赤くて凡庸な色をして、周りと馴染めるけど、自分って囲いには、他の子とは違う微妙なグラデーションがあった。片親になった時も、そう思った。他の子とは違う色の具合だ。夕花ちゃん。ゆうか。夕日に花と書いて夕花。北井夕花。これが、私の名前だった。この街の殆どの人達は、トラッシュと呼ばれる地区の存在のことを知らない。どんな風に生きているのかを知らない。ただ当たり前の様に、あの場所の人間とは関わるなと産まれた頃から決まり事のように言われた。

「音が時々するの。」となんの前触れもなく言った。絶対に何があっても、あの街をトラッシュとは呼ばなかった人を知ってる。まだ幼かった私は母親のその言葉が、自分の他の子とは違うって不気味な気持ち悪いグラデーションのように、馴染むのが心地よくて。たとえば、それがこの世界で変に思われる様なことでも、この感覚が好きだった。
 家には帰りたくなかった。父さんは、運送業の仕事で忙しい。あの家には圭一と叔母が居る。学校終わりに、線引きがされた壁の向こう側に行ってみようかと考えた。母さんが言う綺麗な音がする話。私は失った何かを埋めようと、あの家とは反対方向に行く準備をすると、その時に声が鳴る。
「ゆうかちゃん、どこに行くの。」
同級生の千恵だ。
「ちょっと、用事があって。」チエは、ゆうかちゃんが、寄り道するなんて、珍しいよね。なにかあったの。先生を呼ぼうか。ゆうかちゃんのお父さんに怒られるよ。諦めて、家に帰ることにした。チエに気づかれたのだろう。
なんなら、この道に続くのは、トラッシュの街だ。
 その日の夜に寝ていると、部屋の鍵を開ける音がした。誰かと思って、目をあけて起き上がったら、口を塞がれた。静かにしてと言う男性の声。圭一だ。徐々に覚める現実が怖くなって、叫ぼうとした。
「おい、お前。叫んでどうするの。」と圭一は冷酷に。
「お前なんかを助ける奴っていたっけ。」涙が出た。怖かった。父さん助けて、迎えに来て。母さん、私を元の環境に戻して。それが無理なら、死なせて欲しい。圭一は、身体をまさぐった。声を出すなと脅されて怖くて、我慢した。その夜から、毎日の様に、私の現実となった。綺麗な音が鳴るの、綺麗な音が。夢の中で、リフレインする声。怖くて仕方ない現実を、夢でカバーする。
 いつも通りに通学すると、チエが話しかけて来た。
「ゆうかちゃん。この前は帰れたんだよね。」
あの日もし、私がその街へ向かっていたら、逃げてさえいれば、私は圭一に、あんなことをされなくても済んだのかもしれない。微笑んで笑顔を作った。
「帰れたよ。」心の中が、崩れてゆく。救いがあるのなら、父さんのいる時くらいしかなかった。その日の帰り道を歩くと、サイレンの鳴る車が通り過ぎる。方向は叔母さんの家に近い気がした。私はなんだろうと思いながら、圭一の家へ帰る事を怖がった。暫く、近くの公園に座ることにした。ブランコに乗る。母親を思い出す。
「ゆうか。他の人達をゴミなんて呼ぶ人達より、たった今、何を綺麗に感じるのか。其れを、決めることが、大切だからね。」ブランコを漕いで、空中に舞うと、ジャンプして、降りた。私は笑う。そうだよね、母さん。帰ることにした。
「あんた、どこ行ってたの。」
何かがよく分からない。私は微力な声を出して。
「叔母さん。なにを、怒っているの。」
玄関には父さんの靴があった。
「お父さん、帰ってきてるの。」と駆け出して叔母さんの家の中に入った。見慣れない人達がいた。家に、救急隊、警察。圭一が、立ってた。手に包丁を持ったまま、血だらけで、私と目を合わせようとして、必死に逸らした。呼吸が乱れる。怖かった。警察の人が近寄る
「ゆうかさんですね。」と、私は必死に頷いた。
「あなたのお父さんは、事件に巻き込まれました。」事件。圭一が手にナイフを持ってる。恐る恐る目にする、倒れてる人がいた。父さんだった。事情を説明しますから、と警察の人が言った。圭一は、私を見たまま笑う。父さんに近寄った。
「父さん。どうしたの。」
ゆうかちゃんと警察の人宥める。
「ゆうか。」と怒鳴り気味で、叔母さんが。
私は悪いことは何もしてない。ゆうかさん、聞いてください。あなたのお父さんは事件に巻き込まれました。淡々としてる。
「どうして。」
事情は説明します。一緒に行きましょう。圭一を連れてゆく。私は脳が、活性化されて、状況を理解した。限界になった私は、台所にある調理用のハサミを手に取った。大人たちは、みんな驚いた様子で、落ち着いてと言った。声を無視して、圭一に向けた。圭一の手に持つナイフが私に向いた。そんなことをお構い無しに、死んでもいい覚悟で、ハサミを、お腹目掛けて、刺そうと、突っ走る。ブレーキだ。あと僅かな距離で、止められた。私は泣き崩れた。
どうして、どうして。どうして。どうして、あと僅かな距離で、圭一は死んでいたかもしれない。父さんは。父さんは。あと僅かな距離を無視して、横たわっている。今の現実に、意思の疎通が出来なくなった。視界が暗くなる。母さんの声がする。
「綺麗な音が鳴る、綺麗なの。それはとても。」
 現実が夢だと言い聞かせたい。それが出来るなら、どれほどに楽だったろうか。目が覚める。病院の中。経緯を説明された。やっと理由が、わかった。あの日、帰り道。サイレンの鳴る音の行方は、やはり叔母さんの家だった。公園で時間を潰す。私が帰りたくないと、嫌がった。その瞬間にも父親は、生きていたのだろう。圭一が私にした事を、咎めた。父さんは知ってたのだ。でも、逆に殺された。血だらけの身体が、目に焼き付く。涙が出た。ゆうかちゃんと病院の人が宥める。
「警察に捕まったから、もう大丈夫だよ」
何が大丈夫なのだろう。私は十二歳だ。これから生きてゆくのに、もう誰もいないのだ。他人の世間の人間達に、大丈夫。そんな一言を言われたからって生きてゆけるのだろうか。悔しくて其の儘、病院のベットに横たわる。綺麗な音が鳴るの、綺麗な音。母さんの声だ。目が覚めると、部屋が暗かった。個室の静かな窓から映った月が綺麗で、私は此の儘、鉄格子の中で暮らすのかと頭がよぎる。理由があったとはいえ、人を殺そうとした人間だ。一生ここから出られないのだろうか。さっき見た夢の中を辿った。綺麗な音がするのと、私はその声を頼ろうと決めた。病院を抜け出す。暗闇の中、何も悪い事はしていない。それなのに逃走劇をしている。見つかったら、私はまた嫌な現実を過ごさなくてはならない。線引きされた場所を、目指した。学校とは逆側の道。
 「其れは、とても綺麗な音なの。」




耳を壁に傾けて、綺麗な音の主を探そうとした。何も聞こえてこない。母さんの言ってたことは、なんなのだろうか。この壁を乗り越えたら、何があるのか。私は、もうこの街にいなくてもいいのか、どこでもよかった。私はトラッシュの中に入りたかった。塵って一体、何。圭一はゴミだよね。何故、ここの向こう側は忌み嫌われているの。私の街にだって、ごみはいた。なぜそう呼ばれているの。必死に鉄の柵で出来た壁をよじ登る。拙い足と手を使って。何度、落ちても、手を擦りむいても、登った。頂上までたどり着けた時に、光がこっち側を照らした。灯台から出る光みたい。ここら辺を警戒しているのだろう。私は鉄の柵を器用に降りた。トラッシュ、ゴミの街。獣道が続いて、砂埃の立つ、道をとりあえず歩く事にした。しばらく歩き続ける。足が痛かった。擦りむけて、さっきまでは壁の向こう側で病院に居たから、体力が落ちてた。それでも歩くしかない。それしかもう方法は無いのだ。一時間以上歩くと、街並みが見えた。検問をする出入り口付近。入門証が必要なら、持ってない。入ることは不可能だと思った。目の前に止まる車体。トラック。私はその中に隠れることにした。検問は案外適当で、すんなりと入り口を突破した。トラック荷台から、見渡す街並み。あの場所とは何か違うことを探すなら、廃れている。天井が無い。剥き出しで、小さな露店や、家が並んでいる。家の中は丸出しで、中が見える。トラックが次に止まるなら、一番大きな光を放つ、場所を目指すのだろうと思った。夜だから光が映える。運転手は、陽気に音楽を聴きながら、運転している。二時間くらい揺られて、運転が止まる。目的地に着いたのだうか、盗み聞きをした。英語の会話が聞こえてくる。
 Where's the Lord today?(今日の主は。)英語だから聴き取れない。でもなんとなく会話を聴きながら、ここからいつ出れるのかと、タイミングを測った。その時に、誰かが歩く音が、だいぶ遠い距離で、足音が鳴ってる。また英語が聞こえて来る。
 How many today.(今日は何人。))
 There are only a few. And.(数人しかいない。それと)))
 Someone is in the truck.
(誰かがトラックの中にいる。))
トラックとだけは聞き取れて、怖くなった。このままバレたら、殺されてしまうのだろうか。でも仕方ない。そういう運命だったなら。諦めよう。生きることを。
トラックの荷台が開くと光が目の前に広がる。眩しくて目を逸らす。凡そ凡庸な人間とは違った。綺麗な人形みたいな人がいた。
 Who are you.(あなたは誰。))英語じゃだめかとその人は言った。「お前は誰。」私は言葉を失った人のように、喋れなかった。でもその女性は、私の顔をみるとトラックの運転手と会話を始めた。
「今日は数人だったよね。」と主と呼ばれる女性は話す。
「知らない。どっから着いてきたのだか。」
残りを見せてと主は言った。ああ、乗ってるから勝手に品定めしてくれと運転手の男は言う。女性は私にそこから降りなと言った。私は言われるがままに、傷だらけの足と手を使ってトラックから降りた。そこにいなよと言った後、女性達が、徒然と、トラックから出てきた。主と呼ばれる女性がCan you work right away?(すぐに働ける。)と女性たちは、誰もが虚ろな目をしていた。ええと返して。じゃあ、店に入って、準備してと言った。何を見ているの、と主は私に話しかける。
思わず。
「ごめんなさい。」と謝った。あなた何歳、名前は。
「十二歳、ゆうかです。」と発した。名前があるのと主は言う。名前があるってことは、御前、向こう側の人間か、と聞いてきた。向こう側。ああ、あの場所はそう呼ばれているのか。
「ええ、そうです。」と正直に話した。主は私の姿を見て、傷だらけだね、と言った。あの壁を登ってきたのと。同じくそうです、と喋った。溜息を吐く女は、御前、捨てられたのだろう、或いは、捨てたのか。
えぇ、そうですと答えた。
「仕方がないな。御前、私に着いてこれる。」ゆく宛てのないわたしは、ついて行くことにした。じゃあ、道案内するからと女性に言われるがままに着いてゆく。店の入り口に着くと、派手な装飾のライトと、音楽が、鳴る。綺麗とは遠い感じだった。寧ろ、汚い感じがした。部屋が小分けになっていた。女たちの声が聞こえてくる。男性と戯れてる。私はそれを見て、なにをみてるのと怒られた。あなた、こっちに来て。この部屋、私の部屋と入って通された。座って。
女性は、珍しい人間だ、向こう側を知ってるなんて、ただことではない。女性の傍にはマイクがあった
「世界の少しくらいの光。」
「光って。」
「光があるなら、たぶんこれくらいの価値。」そう言って、音楽を鳴らした。母さんの声が頭の中で聴こえて来た。綺麗な音が鳴るの、綺麗な音が。女性は凛とした声を鳴らした。もし、母さんが言った音の主がこの人ならば、これは夢の中だろうか。現実だろうか、と困る主は私に微笑む。
「この世界は名前が無いの。誰もが。」
「名前。」と私は頷く
「あなたみたいな名前は無い。ゆうかだよね。」
「はい。」
「どちらの世界で生きたい。」
居場所が無かった。
「何方でも構わない。」
「そうなんだ。」女性は、テーブルの上にメモを置いて何かを書いた。
「私の名前は凛子だけどリンって呼ばれてるから。」Rinと、書いてあった。逆さにするとNir.
「今日からニイルだね。」
「ニイル」女性はそのメモを私に渡した。歌を歌った。飾りじゃない私たち。ねぇ、と聞いてきた。
「お前はどう生きたいの。」どう生きたいか、母さんを失った時に何かが減った。心の中の何かが、父さんを今度は失うと、私には何かが、無くなった。綺麗な音は目の前で鳴り続ける。
「あなたみたいになりたい。」と泡沫の願い。
女性は怒ることもせずに。
「簡単じゃ無い。」と笑った。歌ってみてと私に言った。この曲の名前は逆さまの王様だと知る。私は歌った。教わる通りに。
 さかさまのおうさま
 かんむりをとってしまえば価値のない沈黙の人
 世界をみてるのは 誰だった 世界を 支えたのは 誰だった 世界を見下ろしたのは 誰だった 世界を 食べたのは 誰

 かんむりのおうさま
 装飾された飾 飾りだけの価値
 お飾りのわたしたち
 声の出ない わたしたち
 決して飾りじゃない 決して飾りじゃない

 わたしたちは飾りじゃない。
 例えば、幼い私がその曲の意味を何も疑わずに覚えて歌ったのだとしても、私は最初から、この街を捨ててまうのだと、理解してたはずだ。十二歳が終わる。
 第二章
 トピックを稼ぐ日々。凛子との出会いから、二年が経った。十四歳になった。あの日、あの場所に辿り着いて、いちばん光の当たる場所は、躰売と呼ばれる露店だった。女性達が入り乱れて、男性相手にお金を稼ぐ、凛子はそこのヌシ。
「凛子、この子は新入り?」
「そろそろ、お店にだしてもいいかなって。」
「可愛い。」
「そうでしょ。黒髪なのがまずいね。」
「染めさせるの、それじゃあ、凛子みたいに?」
「金髪にするの。顔が映えて見える。」
「この子、凛子に似てる気がする。」
「後釜。」
「買ってるんだ。」
「それより、ニイル、喋って。」
私は黙ったまま。
「こんな子が男を相手に出来るのかよ。」
「顔は綺麗だから、大丈夫だよ。それより、向こう側の話はバレてないよね。」
「エリア内に居たってこと。誰にも言って無い。」
「なら大丈夫、色々と面倒で。」
「凛子を超えそうな雰囲気がある。」
凛子は隙をつかれたような間抜けな顔をして、その後は何時も通りの綺麗な顔に戻る。それより男は言う。この男は黒服でマネージャーみたいなものだ。今度のライブに、この子を歌わせるのは。顔もなかなか綺麗だし、あなたこの子が十四になるまで、まさか何もしてこなかった訳はないよね。
「まあね。歌わせたよ沢山。そればかり覚えるのあとは勉強もさせたけど。一通り。世の中を生きてゆけるくらいの知識は与えたとは。」
男がマイクを持った。
「二イルちゃん、歌って。」
私はマイクを手にして逆さまの王様を歌う。店にいる客や女性達が、私を観る。凛子は煙草を吸いながら、私に目をやる。
「凛子、上手いね、どうやって教えた。」
凛子は少し笑いながら、言った。
「耳がいいのよ。すぐメロディとか覚えちゃう。ニイルの特技だと思う。」拍手が起きた。店の女達も、男性客も、みんなが手を叩いて。少し嬉しくなった。でもこれからは体も売らなくては生きては行けないのだった。トピックを稼ぐ。トピックと呼ばれるお金があった。このエリア内でのお金の名称だ。私の暮らす前の世界では、時間からとってタイ厶と呼ばれている。トピックの紙幣の価値は、広い世界では通用しないし、タイムに比べたら、紙切れのような存在だ。ニイルと声を掛けたのは凛子だった。
「今日は古いお客さんが来るから、相手をしてあげて、綺麗な子には目がない人だから。」
私は黙ったまま頷いた。私は当たり前の様に
「はじめまして、ニイルです。」と言った。男性客は、私をまじまじと眺めて。
「綺麗、若いし。君って何歳。」歳を伝える。
「これからは、凛子目当てより、あなたで、このお店が繁盛するんじゃない。」服を脱いでと言った。私は恐怖を覚えているから大丈夫だ。私は大人しく。
「はい。」と言った。男性の手が首筋に回る。手が胸にゆく、その後は全部の服を脱いで、初客に、体を売った。全部が終わった会計の時に。
「凛子さん。この子は売れるよ。だから今日はこれで払う。」と男性はタイム紙幣で払う。凛子はありがとうと伝えた。其の紙幣で、二十万位の価値だった。また来てくださいね、と声をかけてその場が終わると私には何の感情も無いと凛子にも黒服の男にも言われた。何をしてもされても、何も反応が無いお人形さんみたい。でもそれは案外、楽だとみんながいう。何に、対してもいちいち表情が壊れるようでは、やってはゆけないからだ。
「ニイル、お疲れ様。初仕事。」私は小さく「ええ。」と頷いた。
「トピックじゃなくて、タイムで客がお金を使うなんて、滅多にある事じゃないの。」
「そうなんですか。」と私は小さく言った。
 続く
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