第10話 大蛇

文字数 2,122文字

 グリンが宇宙船に戻って来た。

「皆、聞いてくれ。まず魔界小隊の巣の位置を正確に把握するために偵察隊を出す。第三小隊の隊員がやってくれるそうだ。無事に偵察が済んだら、相手の数を見て、おびき寄せて各個撃破するか、一気に巣へ乗り込むか決める。まあ多分、各個撃破して数を減らした後、巣を攻撃する事になると思う。質問は?」

「どんな相手か分からないし、今までの武器で大丈夫なのか?」

タラが質問した。

「それは問題無さそうだぞ。中央司令部からの情報によれば、今までの魔界勢力と大した違いはないそうだ。偵察隊が戻るまで、しばらく時間がかかるだろうから、俺達は待機だな」

「その間に僕は、岩山の上に索敵所を設置しますよ」

トニが立ち上がる。

「そうだな。頼むよ」


 トニは大きな双眼鏡を手に取ると、折り畳み式の椅子とパラソルを背中へ背負って外へ出た。岩山の前まで来ると、大きくジャンプする。ここはアストラル界のため、この様な身軽な動きも可能なのだ。途中のせり出した岩に足をかけると再び大ジャンプをして、トニは頂上に着いた。椅子とパラソルを設置して座り、双眼鏡で巣の方向を眺める。偵察隊がスペースカイトに乗って巣へ向かっているのが見えた。トニは皆へ念話を送った。

「トニです。設置完了。偵察隊が行くのが見えるよ」

グリンが答える。

「了解。魔界の気配はどうだ?」

「今のところ何にも。匂いもなし」

「そうか。分かった。索敵を続けてくれ」

「了解」

それから丸一日、一同は暇だった。皆はトランプに興じたり、武器の手入れをしたりして過ごした。


 明くる日の朝、トニが念話を送ってきた。

「偵察隊が戻って来ます! あっ、ちょっと待って下さい……後ろから…魔界が攻めてきます! 黒い集団が見えます!」

「分かった。よし、行くぞ!」

グリンは皆に声をかけると火炎放射器を持ってスペースカイトに乗った。タラと銀嶺も後に続く。今回は武蔵も出撃した。外へ出てみると、もうもうと砂煙を上げて、黒い集団がこちらへ迫って来るのが見える。銀嶺は頭痛がして、頭を押さえた。

「トニ、何タイプか分かるか?」

グリンが念話する。

「見えました。どうやら大蛇の群れです」

「了解!」

「グリン、まず俺が殺る」

タラはそう言って大斧を振り上げた。太陽の光が斧の歯に反射して、キラリと光る。次の瞬間、それまで雲一つ無い晴天だった空にみるみるうちに暗雲が立ち込めた。

「フンッ」

タラが斧を振り下ろすと、激しい轟きと共に雲から幾つもの雷が大蛇軍団の上に落ちた。雷撃の直撃を受けて、かなりの数の大蛇が黒い煙となって消滅する。

「……凄いわ」

銀嶺は文字通り、口をアングリ開けた。

「フフ、これが俺の特技でね。雷撃ハンマーさ」

「よし、次は俺が行く。銀嶺、俺が火炎で大蛇を焼くから、洩らした奴を剣で殺れ」

「了解!」

銀嶺がそう叫んだ時、武蔵が遠吠えをした。大蛇の群れは怯えたように、一瞬動きが止まった。その隙に二人はカイトで群れへ突っ込んだ。銀嶺はチラと横を見る。他の部隊も各々の武器で戦っていた。グリンが上から火炎放射を大蛇に浴びせると、大蛇はのたうち回って縮み、煙となった。その脇で、銀嶺が残った大蛇を剣で切り裂く。

「良いぞ、その調子だ、銀嶺!」

グリンがそう誉めた矢先、後ろに回った大蛇が跳ねて、銀嶺に体当たりを食らわせた。大きくバランスを崩して、銀嶺は地面へ落ちた。

「銀嶺!」

グリンは銀嶺の回りを炎を吹き出しながら周回して、銀嶺を守る。武蔵が脱兎の如く飛び込んできて、銀嶺に襲いかかろうとする大蛇を牽制した。大蛇は武蔵の姿を見ると、すぐに後ろへ飛び退いた。

「ツッ、痛た……」

銀嶺は打ち付けた腰を押さえて立ち上がった。

「ボーッとするな!」

グリンが叫ぶ。銀嶺は剣を構えると、一番近くに居た大蛇の首を切り落とした。

「ヒュウッ! やるな! だが気を抜くな!」

グリンが口笛を吹く。一匹の大蛇が炎の隙を付いて、銀嶺に飛びかかった。反射的に後ろにジャンプする銀嶺。その時である――

フワリ

銀嶺の身体が宙に浮き、そのまま後ろへ滑った。

「どういう事!?」

動揺する銀嶺に、グリンが答える。

「スライドだ。ウォーカーの基本的な技だよ」

「でも、どうして……」

「俺達はアストラル体だ。物理的肉体っていう訳じゃない。想念で身体をコントロールすれば、宙に浮いたまま移動する事も可能さ」

「じゃあ、カイトは要らなくない?」

「長い時間浮き続けながら戦闘するのは精神が疲れるからな」

会話しながらも二人と一頭は次々に大蛇を倒し、日が天頂に昇る頃には、群れは全滅した。


「やったな! 銀嶺、さっき大蛇がぶつかった所はどうだ?」

「何かヒリヒリしてるわ」

「よし、念のためだ、火で焼いておこう」

グリンは火炎放射器で銀嶺の全身を炙った。

「どうだ?」

「ええ。治ったわ……でもグリン。私達はアストラル体だって言ったわよね? 物理的肉体じゃ無いのに何で痛みを感じる訳?」

「痛みとか、感覚っていうのは、アストラル領域にもあるのさ。肉体があった時にだって、何処にぶつけた訳でも無いのに心が痛むとかあったろう? それと一緒さ」

「そっか……そういう事ね」

「ああ。よし、一旦船へ戻ろう」

ウォーカー達は皆各々の宇宙船へ帰って行った。

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