第20話 突進

文字数 1,881文字

 翌日、作戦は決行された。武器を持って、カイトに乗り込んだ一同にグリンがエールを送る。

「良し! 皆、いよいよ突撃だ。何とか敵の司令官を殺って、シャンバラへ凱旋しようぜ! 行くぞ! 付いてこい!」

グリンがスペースカイトを飛ばす。銀嶺は後を追いながら周囲を見渡した。敵の城を包囲したウォーカーの一団が、砂漠を疾走する姿が見えた。いよいよ始まったのだ。銀嶺は軽く武者震いした。猛スピードで砂漠を進むと、遠くに要塞が見えてきた。城壁の門から、馬に乗った魔界の騎兵と、ドラゴンが現れてウォーカーを迎え撃つ。


「出来るだけあいつらには構うな! 俺達の目標は司令官だ!」

グリンはそう叫ぶと、カイトの高度を上げた。もうすぐ騎兵隊とすれ違う――そう思った時である。漆黒の魔馬が地面を大きく蹴り上げた。そのまま、グリン達の高度まで飛び上がり、空を駆けた。ドラゴンも黒い翼をバサリと羽ばたかせると、空高く飛んでくる。

「クソッ! 奴等飛べるのか!」

グリンが舌打ちした。

「俺に任せろ!」

タラは叫ぶと、雷撃を食らわせる。向かってくる騎兵とドラゴンの半分が、消滅した。

人形(ひとがた)の魔界も居るのね!」

銀嶺が驚きの声を上げる。

「ああ、魔界でも上位クラスは人形だ。仕方ない、あいつらを殺るぞ!」

グリンはそう言って騎兵とドラゴンの一群に火炎放射器を向けた。

「どうやら、今回は本気を出さないといけないらしいな!」

火炎放射器から巨大な緑色の炎が吹き出し、広がって、瞬く間に空中を緑の火の波が走った。それはまるで突如として天空に緑の海が出現したかの様であった。波は大きくうねり、騎兵とドラゴンを飲み込んでゆく。炎に飲まれた魔界は次々に消滅していった。

「今の何なの? グリンたら、こんな凄い技持っていたのね!」

銀嶺は興奮して叫んだ。一騎、炎の波を飛び越えた騎兵が、グリンをかわして銀嶺の目の前に現れた。いぶし銀の剣を振りかざして銀嶺に迫る。銀嶺は咄嗟に剣を抜き、かち合った刃が火花を散らす。武蔵が吠えた。騎兵は銀嶺から離れてそのまま走り抜け、すぐ様ターンすると後ろから銀嶺の背中を切り付けた。ジャケットが大きく裂け、背中に鋭い傷が付く。

「ウッ!」

銀嶺はうめいてカイトの上に膝を付いた。

「銀嶺! 大丈夫か?」

グリンが振り向いて、騎兵に炎を浴びせた。騎兵は霧散した。グリンは銀嶺に並走する。銀嶺の背中に焼け付くような痛みが走った。その傷口から、何か邪悪なものがジワジワ入り込む。銀嶺は頭を振った。

「私……私は……! 一体こんな所で何をしているの!? こんな若さで死にたくなかった……地球で長生きして、結婚もしたかったわ! 子供だって欲しかった……孫に囲まれて幸せそうに笑う父さんと母さんの顔が見たかった! それが……それが、あんな所で死んじゃって、それで、こんな所で剣なんか振り回して! 私は何をやっているの……」

銀嶺は半狂乱で泣き出した。カイトの上でじたばたと暴れ出す。

「魔界の精神波が入り込んだな……待ってろ。武蔵、遠吠えて魔界を寄せ付けるな! 万が一来た奴は、タラ、頼むぞ!」

「了解だ!」

武蔵の遠吠えを聞きながら、グリンは銀嶺に特大の炎を浴びせた。シュウウッ! 魔の焼ける匂いが辺りに拡散する。

「うう……」

銀嶺はしばらく身悶えて居たが、やがて正気に戻った。

「グリン……」

「おう。大丈夫か?」

「……ええ」

「よし、次行くぞ!」


 三人は再び編成を立て直して、城へ向かった。巨大なドラゴンが数頭三人の目の前に迫る。ドラゴンの吐き出す溶岩液をかわし、電気ショックを避けると、銀嶺は竜巻をイメージして剣を振った。

ヒュウウ! 

風が巻いて、数頭のドラゴンと騎兵が竜巻に巻き込まれる。竜巻は魔界をグルグルと翻弄しながら、彼等を天高く巻き上げた。その後、地表に向かって急降下する。

グワッ! 

凄まじい勢いで、魔界は地表に叩き付けられ、幾多の肉片へ分裂して消えていった。

「これか! 風使いの技は!」

タラが感心したように叫ぶ。

「中々凄いだろう?」

グリンが振り向いて同意を求めた。

「ああ、大したものだぜ。地球人がまさかここまでやるとはな!」

「だよな!」

二人に認められて、銀嶺は悪い気はしなかった。自分でも、確かに凄い技だと思う。

「アオーン!」

武蔵も同意する様に遠吠えした。向かってくる魔界の足が乱れる。そこへタラが雷撃を食らわせて、銀嶺達の行く手の敵は居なくなった。邪魔者が消えて、城がハッキリと見える。灰色の禍々し石造りの巨大な建造物が、銀嶺の視界に迫った。

「良し、このまま城へ突っ込むぞ!」

グリンはそう叫ぶと、カイトのスピードを上げた。
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