第17話 洞窟

文字数 1,892文字

 銀嶺はカイトに飛び乗り、ヒラリとブレスをかわした。魔界は更に苛立って、シャーッと鋭い叫びを上げる。銀嶺は振り向き様、魔界の脳天を切り付けた。真っ二つに割れる頭。すかさず首を切り落とす。一時間程格闘した頃、守備隊が駆け付けた。だが、既に魔界の残りは僅かだった。残った魔界に守備隊が一斉に矢を浴びせる。グリンと銀嶺は暴れまわる魔界を一気に片付けた。


「終わったな!」

グリンが守備隊長に向かって叫んだ。

「ええ。やりましたな。これで村は安泰です」

「そうだな。引き上げるとしようか」

一同は達成感を胸に、村へ引き上げた。村では村人達が総出で待っていた。

「ど……どうでしたか?」

村長が恐る恐る訊ねる。

「安心しろ。巣は全滅したよ」

隊長が村長の肩を抱いた。

「そうですか……良かった」

「これで心配はなくなったな」

グリンも村長の背中を叩く。

「い、いえ……それがそうでもないのです」

「何かあったのか?」

「話すのが遅くなりましたが、以前魔界が襲って来た時に、聖歌隊の少年が一人、拐われたままなのです」

「拐われた?」

「はい。巣に居るかと思ったのですが」

「いや、俺達は見てないぞ」

「そうですか……その……お手数ですが、どうにかしてあの子を探しては下さいませんか?」

グリンは少し考え込んだ。

「分かった。何とかしよう。その子の名前は?」

「有り難うございます。キリンと言います。では、皆さん広場へどうぞ。宴会の準備が整っております」


 広場では聖歌隊の面々が歌を歌っていた。今回は聖歌ではなく、流行歌だった。椅子に座って歌を聴きながら、グリンは拐われたという少年について考えていた。拐われた……殺されたのではなく。では魔界は何かを企んでいるのだ。普通なら見つかったその場で殺される筈だ。

「呑んでますか?」

守備隊の隊長が声をかけた。

「あ、ああ。中々旨い茶だな」

「そうでしょう? この村では上質のミントが育つんです。それで作った茶ですよ」

「うん。アストラル体がスッキリするよ」

「いつ帰られるんです?」

「明日の朝一で帰るさ」

「ロキを付けますか?」

「いや、もう道は分かるし、俺達だけで良いさ」

「そうですか……御一緒できて光栄でした。何だか、せっかく知り合えたのに、もうお別れとは寂しいですな」

「そうだな。だが俺達はウォーカーだからな」

「ええ。分かっております。では、これからも後武運を!」 

「有り難う。お前もな」

二人はガッチリ握手して別れた。


 翌朝、グリンと銀嶺は村人達の見送りを受けながら、村を後にした。また砂漠の旅である。一日カイトで移動して、例の老婆に出会った岩山の辺りまで来た。

「ここ……」

「ああ、そうだな。今日はここで休憩だ。だがその前に」

「前に?」

「ロキが言ってたろ、この辺りで魔界が現れる事があるって。あの老婆を探すんだ。彼女を操っている魔界が居る筈だ」

「分かったわ」

二人は岩山へ向かった。前に老婆を見かけた窪みを探したが、老婆は居なかった。更に岩山に沿って奥へ進むと、岩山にポッカリ空いた洞窟を見付けた。


「入ってみるか」

二人はゆっくり洞窟へ侵入した。真っ暗な闇が二人を包む。洞窟は入り口は狭かったが中はかなりの広さだった。

「グリン……」

「シッ、声を立てるな」

二人の声が洞窟内にこだまする。突然、暗闇の中から黒い物体が二人のカイトに飛びかかった。

「キェー!」

奇声を発したその物体は、あの老婆だった。

「銀嶺、こいつか?」

「ええ」

だが老婆の力ではそれ以上どうする事も出来ない。グリンは足で老婆を蹴飛ばした。

「フフ……フフフ……愚か者共よの。さっさと龍神様に食われてしまうが良いわ……」

老婆はそう言って不敵な笑みを浮かべると、走り去った。

「龍神様?」

「やはり、居るようだな」

グリンが火炎放射器を構える。銀嶺は剣を抜いた。

カラン……

小石が落ちる音がした。グリンは音のした方に目を凝らす。おぼろげに、小さな赤い光が二つ、並んで見えた。光は急に動いた。みるみるグリン達に迫ると、光の下から口が開いて、オレンジ色のドロドロした液体が飛び出す。二人は慌てて避けた。液体が地面へ飛び散り、シュウシュウと煙を上げる。硫黄の様な嫌な匂いが辺りに充満した。グリンは火炎を吹き出した。炎に照らされて見えたものは――巨大な体躯のドラゴンだった。真っ黒な鱗で全身が覆われているのが見える。長く伸びた首先に、凶悪な顔が乗っかって、真っ赤に燃える目を見開き、無数の鋭い牙が並ぶ口を開けて、ヨダレを垂らしていた。


「フフフ……人間共。良く来たな。腹が減っていた所だ。晩飯に丁度良い」

ドラゴンが低い雷の様な声を挙げた。

「喋ったわ!」

銀嶺が驚きの声を上げた。
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