第5話 右の頬から左の頬

文字数 1,270文字

 榊原先生が左利きなのか、それとも流石に全力では無いからなのか、鈴木君が右頬を押さえながら戻って来た。
イテテ……。何も、殴らなくても良いのに
いや、あんな事を大声で聞いたら、叩かれても仕方がないと思うよ?
 クラスの女の子全員がこの様子を目撃しているので、鈴木君の評判が更に悪く……って、ついさっきまで話をしていた愛ちゃんですら、いつの間にか距離を置いている。
 愛ちゃんが話してくれなかったら、もう僕たちは誰も話し掛けてくれないんじゃないだろうか。
 そんな事を考えていると、離れていた愛ちゃんが突然こっちに向かって走って来た。
誰かがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさいっ!
――っ!? ぐはぁっ!
 助走からの飛び蹴りっ!?
 愛ちゃんが勢い良く走って来たかと思うと、鈴木君の手前で高く跳び上がり、見事なハイキックを左頬へ放つ。
 というか蹴る前に叫んだのって、聖書に書かれた有名な言葉だよね? それを蹴る側が言うの!? 何か意味合いも違う気がするよっ!?
 それに高く脚を上げたから、スカートが思いっきり捲れて、太ももまで露わになっちゃってたし。
アンタ、シスターに何て事を言うん!? 失礼やん!
え? だって、聖母マリア……だっけ? 処女なのに妊娠したんだろ?
あんな。さっきのサグラダ・ファミリアもそうやけど、出てくる話が極端過ぎるんやって
そう言われても、俺は有名な話しか知らないし。それに、シスターや巫女さんとかっていう神様に仕える女性は独身じゃないといけないんじゃないのか?
巫女さんの話は知らんけど、シスターは別に独身とは決められてへんで? まぁ司祭様は独身って決められてるけど
 そうなんだ。司祭って、神父さんより偉い人だよね? 後継ぎとかどうするんだろ? ……って、そんな事考えている場合じゃなかった。
二人とも、ストーップ!
いや、大丈夫だ。いくら小崎ちゃんが男勝りの男女だからと言っても、俺は女の子に反撃する程、腐ってないさ
誰が男勝りの男女やねん!
 鈴木君と愛ちゃんの間に入って二人を宥めるものの、収まる気配が無い。
 それどころかヒートアップしてしまっている気がする。クラスの女子たちもハラハラしてるし……仕方がない。ここは少し強引にでも止めないと。
鈴木君。それ以上続けると、クラスの女の子全員から嫌われるよ?
うっ! それは困る
愛ちゃん、少し落ち着こう。でないと、その……さっきみたいに、またパンツが見えるよ?
えぇっ!? 健ちゃん。ウチの……み、見たのっ!?
 鈴木君はこの学校へ進学した理由を思い出したのか、僕の言葉で顔が青ざめ、愛ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
 実際は太ももまでしか見えて無いけど、これくらいの嘘は神様も許してくれる……よね?
 だけど、一先ず二人を落ち着かせる事には成功したので、これでようやく教会の扉をくぐる所まで来れたよ。
……もっと可愛いのにしておけば良かった……
えっ!? 愛ちゃん、何が可愛いって?
なっ!? な、何でもないもんっ!
 どういう訳か、愛ちゃんは教会へ入った後も、暫く顔を紅く染めたままだった。
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登場人物紹介

三木 健斗(みき けんと)<主人公>

15歳の高校1年生。

家から一番近い中高一貫の私立高校が女子校から共学になったので、進学した。

普通の中学校からミッションスクールと呼ばれるキリスト教の学校へ進学したので少し戸惑いはあるものの、ある想いを胸に秘めて通学する。

三木 凛花(みき りんか)<主人公の妹>

14歳の中学3年生。

家から一番近い事と、制服が可愛いという理由で中学からミッションスクールに通う小柄な少女。

無邪気過ぎる言動と笑顔で、たびたび兄を困らせている。

鈴木 裕也(すずき ゆうや)<主人公のクラスメート>

15歳の高校1年生。

可愛い女の子が多そうだからという理由だけで、ミッションスクールへ進学してしまった、黒タイツが好きな少年。

思った事を口に出来る、ある意味で勇者。高等部だけでなく中等部の女子生徒にも興味を持っている。

小崎 愛(こさき あい)<主人公の幼馴染み>

15歳の高校1年生。

両親がクリスチャンで、小学校までは公立の共学校に通っていたが、中学からミッションスクールへ。

小学生の頃は女子と遊ぶよりも、男子と一緒に木登りやサッカーをしていた活発な少女。

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