第5話 右の頬から左の頬
文字数 1,270文字
榊原先生が左利きなのか、それとも流石に全力では無いからなのか、鈴木君が右頬を押さえながら戻って来た。
クラスの女の子全員がこの様子を目撃しているので、鈴木君の評判が更に悪く……って、ついさっきまで話をしていた愛ちゃんですら、いつの間にか距離を置いている。
愛ちゃんが話してくれなかったら、もう僕たちは誰も話し掛けてくれないんじゃないだろうか。
そんな事を考えていると、離れていた愛ちゃんが突然こっちに向かって走って来た。
助走からの飛び蹴りっ!?
愛ちゃんが勢い良く走って来たかと思うと、鈴木君の手前で高く跳び上がり、見事なハイキックを左頬へ放つ。
というか蹴る前に叫んだのって、聖書に書かれた有名な言葉だよね? それを蹴る側が言うの!? 何か意味合いも違う気がするよっ!?
それに高く脚を上げたから、スカートが思いっきり捲れて、太ももまで露わになっちゃってたし。
そうなんだ。司祭って、神父さんより偉い人だよね? 後継ぎとかどうするんだろ? ……って、そんな事考えている場合じゃなかった。
鈴木君と愛ちゃんの間に入って二人を宥めるものの、収まる気配が無い。
それどころかヒートアップしてしまっている気がする。クラスの女子たちもハラハラしてるし……仕方がない。ここは少し強引にでも止めないと。
鈴木君はこの学校へ進学した理由を思い出したのか、僕の言葉で顔が青ざめ、愛ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
実際は太ももまでしか見えて無いけど、これくらいの嘘は神様も許してくれる……よね?
だけど、一先ず二人を落ち着かせる事には成功したので、これでようやく教会の扉をくぐる所まで来れたよ。
どういう訳か、愛ちゃんは教会へ入った後も、暫く顔を紅く染めたままだった。