第2話 ミッション

文字数 1,676文字

健斗、うぃーっす
あ、鈴木君。おはよ

 教室へ入って、自分の席へ着くと隣の席の鈴木君が僕に話しかけてきた。

 というか、僕しか話相手が居ないというのが正しいかな。今年から共学になったばかりという事もあって、教室を見渡してみても女の子ばかり。

 事実、一クラス三十人の中に男子生徒は僕と鈴木君しか居ない。その上、ほとんどが中等部からエスカレーター式に高等部へ進学したのだろう。初めてのホームルームを前に、既に女子たちは楽しそうにお喋りしている。
あのさ。昨日の入学式にコスプレしながら前で喋ってた女の人が居ただろ?
いや、コスプレじゃなくて本物だから。しかも、あの人は僕たちの担任、榊原先生だからね?
え、そうなのか? で、本物って?
え? だから、修道女――シスターだよ。だって、ここミッション系の学校だし

 ボケ……だろうか? 学校案内にもしっかりミッション系――キリスト教の学校だと記載されていたし、進学するなら普通読むよね? 読んでるよね?

 僕の心配を余所に、当の鈴木君は暫し考え込んだ末、突然立ち上がる。
よし、ミッションスタートだっ! 黒タイツの女の子を五人探すぞっ!
待って! ミッションっていうのはそういう意味じゃないよっ! しかも、何で黒タイツ!?
そんなの決まってるだろ! 黒タイツを履く女子高生は至高! 黒タイツを履いている女の子は、可愛さ三割増しだっ!
いや、意味が分かんないよっ!
健斗はバカなのか!? 黒タイツを履く事により女子の脚のスベスベ感が増し、そして何より黒タイツで隠される事で、エロさが増す。黒タイツは完璧なアイテムじゃないか
 うわぁ……どうしよう。鈴木君の言っている意味が全然分からない。
 というか、今さらだけど結構大きな声で話していたから、クラスの女の子たちがこっちを見てヒソヒソ話を……って、ドン引きされてるよっ!
 しかも、一人こっちへ向かってきた。意志の強そうな瞳で僕たちを見つめながら、呆れているとも怒っているとも取れる表情を浮かべるポニーテールの女の子だ。まさか、いきなりクラスの女子に怒られちゃうのっ!?
まったく。ウチのクラスの貴重な男子やのにアホな話ばっかり……って、あれ? あれあれ? その髪型に、ちょっと締りの無い顔。それから健斗……って、もしかして三木健斗? 健ちゃん!?
へっ? その呼び方に、独特のイントネーションは……まさか、愛ちゃん!? 愛ちゃんなの?
うん。そう、ウチ――小崎愛やで。うわー、健ちゃん三年振り? めっちゃ久しぶりやん
そうだね。最後に会ったのが小学校の卒業式だもんね。って、ちょっと待って。誰が締りの無い顔だって?
え? ウチ、そんなん言ったっけ? 気のせいちゃう?
 愛ちゃんが何の事? と言わんばかりにとぼけてくる。

 小学校の六年間ずっと同じクラスで、いつも一緒に遊んで居た幼馴染みだけど、別の中学に進学したのでそれっきり会う事が無かった。

 意外な場所で再会したけど、どうやらあの頃と同じ笑顔を向けてくれるようだ。
けど、健ちゃんって小学校の頃からあんまり変わって無いんちゃう?
そんな事無いよ。身長だって伸びたし、声変わりだってしたしさ。それより、愛ちゃんこそ何にも変わっ……
ん? どうしたん? ……って、もぉ、健ちゃんったらどこ見てるん!? エッチなんやからー!
 口では怒りながらも笑顔のままの愛ちゃんに、おでこをペチッっと叩かれてしまった。

 何と言うか、愛ちゃんは身長とかは普通に成長したなーって感じなんだけど、一部が……胸が立派に成長していた訳で。気付けば僕は、無意識のうちに凝視してしまっていたようだ。

 けれど、再び小学校の話に戻り、久しぶりの再会を懐かしんでいると、
なるほど。健斗の元カノか
……ち、ちゃうもん。お、幼馴染みやもん。まだ……
へー。なるほどねー。ふーん
ちょっ! 何で、アンタはそんなニヤニヤしてんねん! ……ほ、ほら、先生来たわっ! ほなウチは戻るからっ! ……アホーっ!
 余計な事を言ったのは鈴木君なのに、顔を真っ赤にした愛ちゃんが、何故か僕に怒りながら席に戻って行ったのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三木 健斗(みき けんと)<主人公>

15歳の高校1年生。

家から一番近い中高一貫の私立高校が女子校から共学になったので、進学した。

普通の中学校からミッションスクールと呼ばれるキリスト教の学校へ進学したので少し戸惑いはあるものの、ある想いを胸に秘めて通学する。

三木 凛花(みき りんか)<主人公の妹>

14歳の中学3年生。

家から一番近い事と、制服が可愛いという理由で中学からミッションスクールに通う小柄な少女。

無邪気過ぎる言動と笑顔で、たびたび兄を困らせている。

鈴木 裕也(すずき ゆうや)<主人公のクラスメート>

15歳の高校1年生。

可愛い女の子が多そうだからという理由だけで、ミッションスクールへ進学してしまった、黒タイツが好きな少年。

思った事を口に出来る、ある意味で勇者。高等部だけでなく中等部の女子生徒にも興味を持っている。

小崎 愛(こさき あい)<主人公の幼馴染み>

15歳の高校1年生。

両親がクリスチャンで、小学校までは公立の共学校に通っていたが、中学からミッションスクールへ。

小学生の頃は女子と遊ぶよりも、男子と一緒に木登りやサッカーをしていた活発な少女。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色