第7話 八方ふさがり

文字数 1,112文字

それから半年後。あれから、文吉さんとは会わずじまい。

仲良し3人組のうち、いせちゃんが抜けて、2人ぼっちになった。

なんとなく、張りがない。お稽古事に通う道中も、2人そろって元気なし。

「なにか、変わったことはないかしらねえ」

 ある日の昼下がり。しまちゃんがふとつぶやいた。

「変わった事? たとえば、どんな? 」

 わたしが聞いた。

わたしの身辺の変化と言えば、すぐ下の姉が他家に嫁いだ事だ。

それに、文吉という運命の相手に出会った。

妹に先を越された姉のまさは周囲の心配をよそに、

お見合いよりも、他人の世話を焼く事を好んでいる。

積極的に、町内の行事の準備に顔を出したり、

近所のもめごとを仲裁したりアネゴ肌を発揮している。

「わたしさ、うちを出るかもしれない」

 しまちゃんが言った。

「縁談が決まったの? 」

 わたしは急に焦りを感じた。

「京にいる伯母の体調が良くなくて‥‥ 。

来ないかと言われているわけ」

 しまちゃんが遠い目で言った。

「体調が悪い伯母の世話をするために、京へ行くわけ? 」

 わたしが聞いた。

「それは口実。家を出るためには、なんでも利用しなくちゃ」

 しまちゃんがふっと笑うと言った。

しまちゃんの話によると、継母との間に確執があるという。

伯母というのは、本当の母親の姉にあたる。

「お父上はなんと? 」

「好きにして良いとは言われていない。

ただ、継母は、わたしがいなくなれば安堵するのではないかしら」

 しまちゃんがぶっきらぼうに言った。

一方、大奥へ奉公したいせちゃんは、慣れない暮らしに

四苦八苦している様子が手紙を通して伝わった。

花嫁修業とは言え、郷に入れば郷に従え。

武家のお嬢様暮らしとは月と鼈の差。

大奥では、下働き同様の扱いを受ける。

音を上げるのも時間の問題のような感じだ。

わたしはというと、あれから、文吉を捜している。

所縁のある場所を巡りながら、

どこかで、バッタリと逢えないものかと思いめぐらす。

縁というものは、欲を出すとダメらしい。

文吉とのことで、三郎太さんという許嫁の存在を忘れていた。

三郎太さんは主君について、国元に帰っている。

ところが、近い内、参勤交代のため、江戸入りするらしい。

何とも言えないタイミングで、現実に戻される。

両親は、三郎太さんが江戸入りしたらすぐにでも、

わたしたちを結婚させるつもりらしい。

そのせいか、父が突然、お稽古をやめるように言って来た。

花嫁修業の方に重点を置くつもりのようだ。

そうなったら、毎日に張り合いがなくなる。

親同伴の外出が増えることだろう。

お稽古がなくなると、しまちゃんとの付き合いが減った。

結局、しまちゃんも、花嫁修業を強いられることになる。

そんなある日。しまちゃんが行方不明になった。





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