第1話 仲良し三人組

文字数 1,560文字

  結婚自体にあこがれているわけじゃない。

これは、決して強がりでも言い訳でもない。

我が家は、お城のお殿様にお仕えする幕臣の家。

年頃になったら、父親と同格の幕臣の家の

次男または三男とお見合い結婚することになっている。

長兄の新之助が家督を継ぐことがすでに決まっている。

2人の姉、みつとまさは近い内、他家に嫁ぐことになっている。

三女のわたし、むめにも一応、幼い頃から

三郎太さんという親同士で決めた許嫁がいる。

だけど、彼との結婚がいまいちピンとこない。

家が近所で、物心つく前から、お互いの事を知っている。

両親は、三郎太さんこそ、わたしの相手にふさわしいと信じている。

だけど、わたしにも理想がある。出来るならば、恋愛結婚がしたい。

お婿さんにするなら、やっぱり、腕っぷしが強くて勇ましい人が良い。

家の近所にある道場の横を通る度、

親同士が仲違いするかまたは、三郎太さんに他の相手が見つかったり

しないかしら、そうしたら、もしかしたら、

道場に通うお武家の次男坊たちの中から、

新たな相手が見つかるかもしれない。

そんな邪な心を抱いてしまう。

武家の女性は、結婚するまで家にいて、

家事を手伝いながらお稽古事に勤しむ。

いわゆる花嫁修業ってやつかしら。

もちろん、わたしも13の時から、

活け花、お茶、三味線、裁縫を習わされている。

どれも、天性の才能を見いだせないまま。

唯一、続いているのが三味線。

これは、息抜きに追加されたお稽古事に過ぎない。

父親の待ったが出れば、即刻、やめなければならない。

やめなくても良い手段として、他のお稽古事をさぼらず、

ある程度、上達することが必須になる。

ある日のこと。三味線のお稽古事の際、

お師匠さんから、名取になれるとのお墨付きをいただいた。

その後に行った活け花のお稽古事では、その話でもちきりになった。

「このまま、お嫁に行くなんて、もったいないわ」

「そうよ。続けた方が良いわよ」

お稽古事にいつも一緒に行くいせちゃんとしまちゃんが口々に言った。

「そうもいかないわ。武家の主婦は何かと制約があるものよ」

 わたしはやんわりと否定した。

内心、もしも、許されるならば、三味線を極めてみたいと思った。

言い出せない雰囲気は、親友の間ではない。

だけど、みんな、同じ行く末をたどる同士。

どこで、どう、邪心がバレて、三味線が出来なくなるかしれない。

用心には用心を重ねなければならない。

いせちゃんが本当は、花嫁修業をかねて

大奥へ奉公する事を嫌がっていると知っているし、

しまちゃんが一日も早く、家を出たがっていることも知っている。

結婚したら、自由になるわけでもない。

何か始めようとする度、主である夫または家を取り仕切るお姑の許しがいる。

今は、親の目があるから、表立って、好きな事が出来なくても、

お稽古事の合間に、寄り道するぐらいは出来る。

活け花のお稽古事の帰り道。浅草の店に寄り道した。

いつも頼むのは、あんこがたっぷりと塗られた団子と決まっている。

なけなしのお小遣いは、ささやかな買い食いで消える。

「ところで、よくあたる占い師がいるんだけど、

今度、占ってもらいにいかない? 」

 しまちゃんが、最後の団子をたいらげると言った。

「店はどこにあるの? 」

 わたしが聞いた。

「ここからそう遠くはない。もしだったら、今夜、行かない? 」

 しまちゃんが意外な言葉を口にした。

(夜に出かけるなんて、許しが出るはずがない)

「それはどうだろう。夜、抜け出したことがバレたら大変」

 案の定、いせちゃんが難色を示した。

「平気よ。なんたって、この時期、夜桜見物で大勢人が出ているもの。

夜桜見物に行きたいとでもねだれば、何とかなるって」

 しまちゃんが身を乗り出すと言った。

「じゃあ。もし、上手くいったら、いつもの場所で待ち合わせしましょ」

 わたしたちはそう約束して別れた。



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