第2話  恩田の谷戸の雑木林(冬)2  番匠谷戸のハンノキの林

文字数 793文字

 番匠谷戸のハンノキの林では、15mほどの高さのハンノキの上の枝で、細長い棒のような形をした来年開く雄花が春を待ち、同時に松ぼっくりを小型にしたような今年の果穂 が上向きについている。果穂にはまだ実が残っていて、冬の木枯らしが吹き荒れる時に飛 んでいくだろう。それは子孫を遠くに運んでもらう手立てである。

 同様の草木の知恵を今日ここで2つみた。一つはヤマノイモであり、一つはガガイモである。

 ヤマノイモの雌花は下を向いている。ところが、どういうわけか実が成る時には、上を向いてくる。茶色くなった鞘を真上から見ると、三角形の口を開き、中には、平たい種子 が入っていた。数えると、三角形の各辺に2枚づつ計6枚の種子がある。そのような鞘が 数珠繋ぎにおよそ100ばかりあり、すっかり鞘が枯れているところから、皆ずいぶん長い間、口をあけて種子が飛び出すのを待っていることが分かる。なかには、下を向いてしまった鞘が少しあり、それらには種子は入っていない。

 鞘が上を向いている利点は、種子をできるだけ遠くに運べることにある。よほどの強風が吹き、鞘を大きくゆらさないと種子は出られないからである。寒い木枯らしが来て、彼等はようやく親が用意してくれた仕掛けから出ていく。さらに驚くことに、この種子には 羽がある。種子はその回りにうすい円形の羽を持っていて、重心よろしく、長い距離の飛 行を可能にしているのである。ヤマノイモは、11月下旬ごろ、私の利用している私鉄の 駅前の雑居ビルの金網にからまって、むかごを沢山つけていたのを思い出す。都市等の、どこにでもあるのは、このように種子の散布方法が優秀であることが大きな理由であろ う。

 そのときに鞘の中の種子を手にとってゆっくりと眺めると、種子の多くは、羽の真ん中ではなく、左右にずれていることを発見できた。その理由は、手にとってじっくりと眺めれば分かる。
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