第4話  北海道旭川市北方野草園にて1

文字数 1,128文字

 休日自然観察者の手記2
北海道旭川市北方野草園にて1

 1994年5月1日 (日) 15時、曇り、旭川市のはずれ、といっても7、8分の所に ある北方野草園に車で向かった。芸術陶器工が多く住む丘を越え、川を渡ると、小高 い森の中腹に入り口がある。5月とは言っても、まだ一面残雪に覆われていて、所々、小 川のあるあたりだけに地面がのぞいている。森閑と静まり返って、生き物達は雪の下で、 木のうろの中で、或いは梢のてっぺんで遅い雪解けの到来を待ちわびている。

 ここには昨年の夏にも来たのだけれど、そのときには、ただ自然と親しむために散歩し た。樹木がたくさんあり、図鑑を見て調べたが、みな同じに見えた。鳥がさえずり、 にはその姿をみせてくれるものもあったが、何という鳥かさっぱり分からなかった。私は それで満足だったか。何か不満なところがあったように思う。それは今でも解決された訳 ではないが、自然の見方といったものは、自然を求める機会が増える程、だんだんとうま くなっていくようだ。それは例えば、自然の中に一人で立った時に、ゲームや読書をする のでなく、自然を相手にいつまでも、いつまでも、どれだけ長く楽しく過ごせるかどうか ではないか。

 いまでも、北海道の風雪に耐えた樹木の幹は皆同じに見えるが、幹に大きな傷あとがあ

 る木が点々を見られる。良く見ると、その木は散在しているのではなく、たどると一本の

 道のように繋がっていき、数えると30本ほどあった。 すぐに浮かんだのは、クマのことであったが、ここは人里で、出現しないように思われ た。

 近寄ると、齧られた高さは、どの木も40cmから2mくらいであった。なぜ、地面に 近い所は食べられていないのだろうか。木は夏の間に幹の内側に多糖類を蓄え、既に冬に 備えている。しかし、それは、繊維の間に入り込んでいて、草食動物の胃にしか栄養とし て取り出せない。齧り取られた樹皮は、直径50cm前後の幹の周囲3分の1くらいで、 1mくらいの長さにわたっていたが、中に2、3本、周囲をぐるっと削られてしまった木 がある。この木はかわいそうだが、養分や水を運ぶ維官束が断ち切れてしまうので、枯れ てしまう。他の木はどうだろうか。枯れなくても、弱ってしまい、中には枯れてしまうも のもあるだろう。

 木の下を見ると丸い糞が散在しているのを発見した。シカのものか。だとすると、エゾ シカというのだろうが、冬にはことごとく何もたべるものがなくなり、味はまずくても、 幹皮を齧り取り、木の内側の養分で命を繋ぐのだろう。

 ふと、どの木も地面から40cmくらいの高さから齧られている理由がわかった。食べ た時には雪がその高さまであったからだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み