第3話  ガガイモの実、その後の番匠谷戸

文字数 2,428文字

 ガガイモの実を見たのは初めてであった。無数の真っ白い綿毛が夕暮れに光っていて、 とてもきれいなものであった。2mほどの高さのつるに、アケビの実を思わせる長さ8c mほどの鞘が成り、そのなかから、白い綿毛がきらきらとのぞき見えている。その綿毛は、 実は1つ1つの種子から生えている冠毛であり、種子は1つの鞘に100個ほど入ってい る。冠毛はくじゃくの羽根を思わせる見事なもので、取り出すと、ほぼ球形に広がるのだ。が、面白いことに、これがクリネックステイシューのように、鞘に極めて効率良く折り 畳まれて入っているのである。
 おそらく鞘が2つに割れた時に、外側の種子の冠毛が風に誘われてほぐれて、外に出てくるのであろうが、そのときに、もう次の種子が半分冠毛を外にのぞかせている。

 この冠毛のお陰で、長い距離の飛行が可能なる。

 家の中で、2mの高さから冠毛の開いた種子を1つ落としてみた。それは落下傘のよう にふわっと空中にただよい、8秒もかかって着地した。何回も試みたが、だんだんと5秒 くらに減ってくるのであった。それは、非常に薄い毛が手についてとれてしまうからであ った。
 冠毛の長さは、長いもので4cm、短いもので2cm以内であった。本数は、約300ほどと思われる。また、平たい涙型の種子(長さ6mm,幅4mm) には、幅1mm ほどの小さな翼が付着している。平たい形をさらに大きくすることで、横風を受け、より 遠くへ運ばれやすくしている。

 野外の微風状態で、10m飛び、どこまででもころがって行く。少し強い風の時 (よくしたことに、このようなときにしか種子は鞘から出ていかない)には、山の1つや2つ、 平気で越して行くだろう。

 また、ここでは多くの里山の鳥を見聞きすることができる。

 雑木林の木のてっぺんで、突然、鳥のけたたましいケケケケケケーという早いテンポの 声がした。それに続いてゆっくりとしたテンポで、しかし鋭い、キュン、キュン、キュン という声が続く。その姿は見えなかったが、自分のテリトリーを眼下に見下ろし、すっか り満足しきって、その長めの尾をくるっ、くるっと回している姿が目に浮かぶ。

 植林されている針葉樹林からは、茶色の野鳥が飛び出してきて、空き地の枯れ草の上に 止まった。チッ、チッ、チッ、と鳴く。その頭の冠毛は角刈りのようで、とても特徴があ る。

 また、いろいろな所で、とても小さな鳥の大きなチーチーチーという声が移動して行く。 その緑色の小さな可愛らしい姿は、時として、意外に近くで見ることができる。

 このように、この谷戸では、人間が田畑を耕すことにより、人間とそこに生息する豊富 な生き物たちの触れ合いが続けられる。それは、何千万年でも、続けられる。

 しかし、今日のこの生き物たちとの触れ合いの舞台は、番匠谷戸を中心としていたのであるが、ここは、既に横浜市の未来の設計図では、都市計画道路になっていて、このまま では、コンクリートの道に取って変わられてしまうだろう。そのような事態になってしま った時のことを考えると、他にどこにも行き場がないこの生き物たちのために、1掬の涙 を禁じ得ない。

 執筆時点で番匠谷戸には都市計画道路建設が通り、跡形も無くなる旨決定されていた。

 その後、しかし行政は変更を行った。以下はその内容である。
「3.3.42 号恩田線は、青葉区恩田町から青葉区恩田町 (町田市界) を連絡する延長約1,140 メートル、代表幅員 22 メートルの都市計画道路で、周辺の市街化に対応し、円滑な都市機能の維 持を図るため、昭和55年に都市計画決定しています。

 一方で、平成20年5月に取りまとめた本市の 「都市計画道路網の見直しの素案」では、本路線 のうち、3・4・33号長津田奈良線との交差部から終点の町田市界までの区間については、廃止することが望ましいとされています。

 当該区間は、3・3・26号川崎町田線や長津田奈良線などの周辺道路のネットワークで交通機能 を代替できることから、隣接する町田市との道路ネットワークの在り方について検討・調整を行っ てきました。

 また、本路線を含む周辺地域は、平成18年に策定された 「横浜市水と緑の基本計画」(平成28 年6月一部改定) において、緑の 10 大拠点の一つである 「こどもの国周辺地区」に位置しています。さらに、近隣には、「恩田町番匠谷特別緑地保全地区」 などまとまりのある樹林地が残ってお り、これら良好な自然環境を保全していく必要があります。

 この度、町田市や関係機関等との協議の結果、本路線と接続する町田都市計画道路3・3・7号 原町田川崎線の一部を併せて廃止することで合意したため、当該区間について廃止します。

 また、今回の変更に併せて都市計画法施行令の一部を改正する政令(平成10年政令第331号) の施行に伴い、車線の数を2と定めます」

 と決定された。

 また、この中の恩田町特別緑地保全地区とは約4.2haの横浜市の緑の七大拠点のひとつの保護地区に指定されており、内容は以下の通りである。

 この時の関係者の方の顔が思い浮かび泣けてきてしまった。

「恩田町特別緑地保全地区は、青葉区の南西部、こどもの国線恩田駅の西約600メートルに位置しており、住宅地に隣接した良好な樹林地です。
 本地区は、「横浜市水と緑の基本計画」において緑の七大拠点である「こどもの国周辺地区」に位置しており、周辺樹林地を特別緑地保全地区や市民の森などに指定し、保全するとしています。 また、「横浜市都市計画マスタープラン青葉区プラン」において、緑の拠点に位置付けられており、横浜市の緑の七大拠点のひとつとして、青葉区の北西部を中心にまとまって残っている樹林地につい ては、緑地保全地区、市民の森などの様々な緑地保全施策を活用し、地域の意向を踏まえつつ保全を図るとしています」
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