文字数 808文字

その夜のことです。
「お嬢様、」
わき腹からするりと熱を持った肌が通り抜け、わたしは思わず声を上げました。開いた口に、指
そのまま幾度か肌を撫で上げられ、腹の下に何か疼きを感じ思わず身をよじりました。
「許してくださいお嬢様、」
衣擦れの音
熱に充てられたのか、芯からじんじん、じわじわあまい
「りんどう、」
「なんて顔をしているんですか、何をされているかもわかってないでしょう」
ぽたぽたとあついみずがふりかかりました
「ないているの、りんどう、」
「いま、どんな顔をしているの、」
「その目も鼻も口も肌も髪も」
「無垢に笑う、いつもどんな心地でいたか、嫌いな醜い顔を触られて、けどどうしたって嬉しくて、あの時間だけは許されてるんだ、ほんとうにあまいやさしい手つきで、あさ、浅ましさまで見透かされて、愛撫、愛撫でしたおれにとって、口内も、体も、噴出した情動を抑え込んで抑え込んで飲み込んで、あなたが眠った後その感覚で発散する、それを見て喜ぶ猿、猿汚らしい、顔、顔、なんであいつらは俺の顔を!!!」
「そうやって朝に迎えるあなたは毒だ、刃物で刺された何度も、何も知らずに穢れた俺に身を預けて、俺が男だってことも知らずに!!明るさにかがやいて、くちから零れる吐息が、大好きだなのに大好きなんだだいすき、おれがいないといきていけない、かわいいかわいいかわいいかわいい、あ、ああ、おれはなんてことを」
「どうして俺はこんなにも汚らわしいんだ!」
「りんどう」
竜胆を抱きしめようとした私の手は空中をふらふらと彷徨いました。
「何も見えないくせに!」
そう言ってかれはわたしをひどくなぐりました
骨と骨がっとした衝撃熱いあたまがくらくら、なまあたたかいえきたいがひろがる 
ぽたぽた 口 鉄の味
見えない
そうかみえないんだ、どうやったって
その事実は今さらに体や心の何かやわらかいところに深く突き刺さり、激しく、圧迫し
「泣かないで、」
わたしはようやくかれをだきしめました






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