文字数 684文字

わたしの声も少し這うようになり、一人で食事をとることや、ある程度の身支度ができるようになった頃です。字も書けるようになり、竜胆に甘えることも、少し、減りました。わたしの肌もやわらとした質感から張りや芯を感じるようになりました。
朝いつものように顔を触れば熱く、奇妙な肌の張りを感じました。
「どうしたの、」「大丈夫なの」
竜胆は黙ったままでした。
触れたことのない空気と嗅いだことのない匂いに私は些か狼狽しました。
「ねぇ、まずは、手当をしましょうよ」

「お嬢様、目を治しに行きましょう。」

「いつもお慕い申し上げております。今までのどの瞬間も忘れたことがない。」
「ですが、目が治れば私はあなたのもとを去ります。」
「理由がございます。」
「お嬢様、わたしは醜いのです。」
「きっと見たら私を嫌いになるでしょう。」
「…そんなわけない」
「わたしはお嬢様とは違うのです。異なった存在なのです。」
「こう思うのもおこがましいですが、お嬢様のようになれたらと何度願ったことでしょうか。」

ようやく私は、息を取り戻し、がたがたと抑えのきかない手を竜胆の方へ伸ばしました。

「…私は目が見えないけれど、あなたは美しいと思うわ。だって、どんな形をしていようともあなたはあなたでしょう?」
「あなただから美しいのよ。だから近くにいて」

波打った自分の声をききながら思いました。確かに竜胆と私の顔の造形は異なっていました。骨ばったところは些か似ているかもしれませんが、それ以外は全くと言っていいほどです。ですが丸いとか硬いとか本当にそうで口から出たなら何を否定することがあるのでしょうか?それが真理に違いは無いのに。



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