文字数 946文字

「人間ってどんな形をしているのかしら」
ぽつりと独り言ちました。私が知っているのは、竜胆の手と顔のかたちだけ。
全部を捉えてみたい。
何色?どんな感触?味は?匂いは?知りたい。
自分の体をくまなく確かめても日に日にその欲望は強くなるばかりでした。
「背が、伸びましたね。」 
確かに最近、竜胆の声が近く感じます。竜胆の手が私の髪を撫でます。なんだか耐えられなくなって、全身で触感を確かめようと竜胆に体を重ねました。
「…どうしました、」
「触れたいの」
「あなたがどんな形をしているのか知りたいの。」
「…さわっていい?」
「脱いで、恥ずかしかったら、私も脱ぐわ、」
竜胆は何も言いませんでした。
衣擦れの音と私たちの荒い息、心臓の音だけがその場に残りました。
「…どうぞ、おじょうさま。」
蚊の鳴くような音は嫌に耳に残りました。
「ありがとう、」
全身の造形をなぞろうと、もう一度体を重ね合わせました。そのままゆるゆると体を動かすと、硬度の差異、疼きが波及し血流のように全身に広がりました。少し高い位置にある顔にいつものように手を触れました。耳は火のように熱く、触れると微かに声を上げました。背を伸ばして、頬を擦り合わせるとふわふわとしたなかに、いつもの通り固い骨を感じました。唇をなぞり、指先をするりと湿った口内に入れ込みました。荒い熱は口の中で反響し、象牙のような固さから、とろとろとしたやわらかい肉が熱く纏わりつき、唾液はだらだらと指先から零れ落ちました。締めたくなるしなやかさで私の指が飲み込まれそうになりました。そのまま、手をまわして背の中央にある波のような固さに指を一つずつ伝わせ、滑らかな曲線を描きました。
楕円 弧 甘い 下腹部に手を伸ばして
「だめです」
引っ張られた爪先が空を掻きました。
何か液体が腿を這い滴
バチバチと糸で刺したような激が走り、心臓が火花をたてました。
足元にしゃがみ込んだまま尋ねました。
「竜胆、わたしはどんな顔をしているのかしら。」
「どうして目が見えないのかしら、みたい。みてみたい、一度でいいから」
目頭が熱く、瞼の細かな震えが止まらなくなりました。眉根が寄り、喉が絞まります。鼻の奥がツンとして、目を見開けばぼたぼたと溢れたものが落ちていきました。
「泣かないで、」
竜胆に抱きしめられました。
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