文字数 1,057文字

それと微かに聞こえたのは竜胆の声です。
「今さらあの子に何も教えていなかったことは咎めない。」
「けど、これはとどめを刺すことよ。」
「何が言いたいのでしょうか。」
「私が言いたいのは、あの子に全てを伝える必要があるのか。つまり、目を治す必要はあるのかという事。」「あの子、ありのままを見たらいったいどう思うのかしら。…結果は目に見えているわ。」
「私は竜胆です。」
「あの子をずっと見てきた。あの子は私の真実で、私はあの子の嘘だとしても、あの子は私を信じるでしょう。私があの子の全てだから。あの子が私の全てだから。」
「…見えてしまったらあなたたちの関係は壊れる、きっと傷付く。しかも酷く。結果は目に見えている。歪み切ってしまう。だってあなたの外見は、」
「貴方達は、」
「そうやって私とあの子の美醜を勝手に判断して、飾り立てて包み込んだ言葉で伝えてくる。」
「醜い、美しい」
「私が一番嫌いなのは紛い物の美と醜さだ。」
「君がこの顔を、この目を、この鼻を、この口をどう思っているのか。」
「わかっているよ、きみが本当に美しいと思っているのはわたしだ。」

唐突な沈黙の後
一瞬の上ずった声、少しの水の跳ねる音、熱を持った息の音

「俺を、はるかぜのようなやつだとおもったのか?」
「ずっと誤魔化してきたんだ。自己嫌悪」
「あぁ、もうどうだっていい!どうだっていい!
綺麗じゃなくていい!全部吐き出させてくれ!!!なにが芸術性だ純正だ!!文学なんてごみ、形骸化した、残骸だ!そもそも芸術のどこに品性がある!ただの欲望が俺の言葉を邪魔するな!!よく聞けよ、」
「俺は竜胆だ。」
「あの子は美しい、俺の全てだ」なんと薄気味悪くぺらぺらほらいまおれがしゃべった言葉にはあつみがあるだろう
「それを壊すことは許さない」
「あの子が俺のすべてなんだ。あの子の美しさで俺は生かされている。」
「あの子のは俺を認めてくれた、邪魔をするな」

初めて聞く怒声に耳が氷
ただどこかで心から話す竜胆を美しいと思いました。
私は竜胆の見る世界が眩耀と、脈打つと信じている。
ならば水火の苦しみを受け入れるほかないのです。
こちらに啜り上げた声と足音が近づき、焦った私は咄嗟に後退ろうとし何かに躓いてしまいました。
「誰なの、」
「ご、ごめんなさい、わたし」
「あなた、」
わたしは冷たい床からよろよろと立ち上がろうとしました
「どうして、あなたは見えないの?」
崩れそうな声が耳に淀み、わたしはゆっくりと顔を上げました
「……どうしてかしらね、」
そこに返答はなく、もう立ち去った後だと今さらながら気づいたのです。
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