第5話 大丈夫

文字数 1,435文字

 美葉は麦畑で少しだけ収穫の手伝いをし、みんなと綺麗な夕焼けを眺めながら、家路に着いた。帰るとテーブルの上にはご馳走が並べられていた。そして一人見知らぬ女性がいた。まだ少女感の残る可愛らしい人だった。その女性はリンの彼女のメイだった。挨拶もそこそこに美葉がスニーカーの礼を言うとメイはハニカミながら満面の笑みで
「Miha!」
と言って美葉に抱きついてきた。そして
「Can you be my friend?」(友達になってくれる?)
と言ってきたので美葉は
「Of course!」
と答えた。メイは美葉と同い年だったが美葉よりも少し幼く見えた。
そんなメイと美葉を見ていたリンは
「You are best friends!」
と言ってメイと美葉を両手でハグした。美葉はとてもドキドキしていた。美葉は自分でも自分の顔が赤くなったのがわかった。
「You are a bit shy.」
とリンがいたずらっぽく言うと、美葉は余計に恥ずかしくなった。そんな美葉を見てメイは
「Rin, she is pure. Don’t tease her.」(リン、美葉はピュアだからからかわないで)
と言った。美葉はなんとなくしか意味がわからなかったが、二人のじゃれあいを見ていてとてもお似合いのカップルだなと思った。そんな二人にちょっとだけ妬けたけれど、リンもメイも本当にいい人だなと思ってなんだか温かい気持ちになった。
リンのバースデーパーティーはとても楽しいものとなった。ただ美葉にはわからない英語がいっぱいあってなんだか海外にホームステイしているみたいだった。
 そして夜も更けみんなそれぞれの部屋へと向かった。楓は美葉に
「あのお部屋美葉ちゃんが使ってね」
そう言って美葉を今朝の部屋へと連れて行ってくれた。美葉はありったけの感謝の気持ちを込めて
「ありがとうございます。なんでもお手伝いします。そんなにお役に立てないかもしれませんが」
と言った。それを聞いた楓は
「遠慮しないでいいわよ。美葉ちゃんがいてくれるとみんな明るくなるからいてくれるだけで充分よ。こちらこそありがとうね」
と笑顔で美葉の手を握った。
 それから美葉は部屋で一人になった。美葉は疲れを感じていなかった。これは本当に現実なのだろうか?と思って頬を抓ってみたが本当に痛かった。やっぱりこれは夢ではないようだった。
 美葉はスマホを見た。相変わらず画面には「2023 7月24日 23:26」と表示されていた。美葉はダメもとで俊に電話をしてみた。すると
「この電話は現在使われていません」
と機械的な女性のアナウンスが流れた。美葉は当たり前だよなと思った。2123年にはスマホは存在していないみたいだったが、美葉にはポータブルWi-Fiがあったおかげか美葉のスマホは使えるみたいだった。美葉には調べたいことが山ほどあった。でも調べるのが怖かった。いままで観たタイムリープものの映画や本を思うと余計に怖くなった。もしかしたら私はもう死んでしまっているのかもしれないとも思うとゾッとして得体の知れない恐怖に襲われた。
 美葉は音楽を聴くことにした。イヤホンを耳につけ大音量で自分の好きなバンドの曲を聴いた。美葉は涙が止まらなくなった。とてもとても心細かったけれど音楽はいつだって味方だった。好きな曲の中にあった「大丈夫」という歌詞がやけに胸に刺さった。美葉は自分に「大丈夫」そう言い聞かせて音楽を聴いていたらいつの間にかスヤスヤと眠ってしまっていた。
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